老いることにどう抗うか──そんな壮大にも思えるテーマを掲げる「抗加齢医学」は2000年代以降、医療の一分野として認められるようになってきた。
2001年には日本抗加齢学会が発足。分野としての裾野は幅広く、老化のメカニズムにかかわる遺伝子や再生医療の研究から、生活習慣改善の啓蒙、ストレス軽減のためのケアまで、取り組みは多岐にわたる。
単なる長生きを志向するのでなく、高齢者のQOL(生活の質)の向上を図ろうとする試みといえよう。
この分野に専門家の期待と注目が集まっている背景には、世界中の先進国で高齢化が進み、医療費が国家財政を圧迫するなかで「病気にかかってから治す」というアプローチに限界が見えてきている現実がある。
日本人の死因第1位である「がん」を例にとっても、体への侵襲性の高い外科手術は、体力の衰えた高齢者には耐え難いものとなるし、抗がん剤治療は正常な細胞にまでダメージを与えてしまうので、加齢によって免疫力の低下した患者にはリスクが高い。放射線療法や腹腔鏡手術など、患者の負担が少ない治療法の研究も進んでいるが、それとて加齢とともにリスクが高まる側面があることは否めない。
同様のことはがん以外の疾病についてもいえる。そうした背景があるからこそ、「治療」だけでなく様々な疾病を引き起こす「老化」にターゲットを当て、病気を未然に防ぐ研究に世界中の研究者が取り組むようになってきたのだ。
これから「老いるステージ」へと差し掛かる中高年層は、そうした日進月歩の研究の恩恵に与るためにも、「抗加齢」を巡る最新の知見を知っておく必要がある。
この分野で近年、とりわけ注目を集めるのが、自らの免疫力を高めることで様々な疾患への感染を防ぐ「ワクチン」の活用である。