中国のお年玉にまつわるエピソード、現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が紹介する。
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間もなく春節(旧正月)を迎えようとする中国。田舎では出稼ぎに出た家族の帰りを待つ家族や親せきたちが、都会から買って帰るお土産に心を躍らせ、子供たちは何といっても「紅包」(お年玉)を楽しみにしている。
中国の「紅包」は、日本のお年玉とは少し違い、さまざまなお祝いの場で配られるご祝儀に近く、時期も一年中だ。以前の中国では、新聞記者が企業の新商品発表会に顔を出せば、それだけで「紅包」を手にすることができ、はしごすれば結構懐が温まったといわれた。つまり、「紅包」は大人であってもうれしい臨時収入というわけだ。
だが、湖南省長沙に住む劉さんが「紅包」を受け取ったケースはちょっと珍しい。
年の瀬、劉さんが地元の銀行に行って新たに口座を開設して帰宅したのは午後3時であった。その3時間後の午後6時、銀行から「手違いがあった」との連絡を受けた劉さんは再び手続きのために窓口まで足を運ぶことになった。
銀行に着いた劉さんは、そこでいきなりタバコを一箱プレゼントされ、さらに赤い包を手渡された。開けてみると中には100元札が2枚入っていたという。
いったい何が起きたのか。銀行側の説明を受けてびっくり。なんと劉さんの通帳には12億元(約200億円)の入金──正確には1,212,405,360元──が記録されていたというのだ。何やら事件の臭いも漂う話だが、原因は銀行員による単純な記入ミス。口座番号をそのまま金額として記入してしまったという。
銀行までの道のりを余分に1往復しただけでタバコ一箱と200元(約3300円)ならば悪くはないはずだが、一瞬でも自分が12億元の富豪になっていたと思えば落胆の方が大きいのだろうか。