がん治療の最前線で、ある新薬が注目を集めている。昨年、「夢の新薬」と話題になった「オプジーボ」と同じ悪性黒色腫(皮膚がんの一種)と肺がんに対する治療効果で厚労省から承認を得た「キイトルーダ」で、製薬大手の米メルク社が開発した免疫治療薬だ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が解説する。
「がん細胞に直接作用するこれまでの抗がん剤と異なり、キイトルーダは患者の免疫機能を高めることでがん細胞を縮小させます。オプジーボに似た効果を持つため、ライバル薬とされています。
さらに、キイトルーダは個別のがん細胞を狙い撃ちにするのではなく、体内の免疫細胞に作用するため、発症部位に関係なく様々ながんに効く“汎用性”の点で、オプジーボを上回る可能性があるとの指摘がある。この2つの薬が揃うことで、1つの治療薬で多くのがんを治せる可能性が一気に広がった。がんは『薬で治す』時代に向かっていくといえるでしょう」
胃がんや大腸がん、食道がん、肝がん、前立腺がんなどを対象とした臨床試験が国内で進められており、更なる治療効果が期待されるキイトルーダだが、「薬価」はまだ決まっていないため、現在は一部の医療機関に限って無償提供されている。今年2月にも薬価の確定が予想されており、その後短期間で広く処方されるようになる見込みだ。
これまでとは違ったアプローチで“がん細胞を殺す”新薬は、ほかにも続々と日本に“上陸”すると期待されている。
昨年12月、大手医薬品メーカーヤンセンファーマが多発性骨髄腫(血液細胞の一つである形質細胞ががん化した状態)の治療薬として「ダラツマムブ」の製造販売承認を厚労省に申請した(アメリカでは2015年11月に承認済み)。
ダラツムマブはがん細胞の表面にできたCD38という抗原(病原菌などの異物)にピンポイントで結合し、免疫機能を活性化することでがん細胞を攻撃するタイプの免疫療法薬である。日本では今年秋頃に承認が見込まれ、早ければ年内に販売開始されるとみられている。