京都駅のほど近く、築80年を超えるという風情ある町家に、木地師(きじし)の工房はある。
「木地師いうても、みなさんようわからへんやろな。ろくろを使って木工細工をする、奈良時代から続いてる伝統工芸のことや。うちはここで、見張り役をしとかなあかんねん」
バサラが見張るのは、大事な木材や作品をかじるネズミと、木地師の仕事ぶり。
「昔は、天井裏をネズミが走りまわってたんやって。ここには貴重な木もようけあるし、イタズラされたらえらいことや。木地師については…言いたいことは山ほどあるけどな」
ため息まじりのバサラに苦笑いで答える木地師。まるで夫婦のような彼らの出会いは8年前のこと。ブリーダーの知人宅でたくさんの子猫が生まれ、先代の猫を亡くした木地師に声がかかった。
「それが『生き物をお金と交換するのはイヤや』って、一升瓶とうちを交換しやはってん。もう、ここからすでに雑やん!!」
文句を言いながらも木地師が大好きなバサラ。仕事中は傍らに控えてじっと手元を見つめ、一段落したことがわかると「ちょっと遊んで」と作務衣の袖をチョンチョンと引っ張る。
「手のかかる人やけど、作るもんは一流や。内助の功でうちが支えてあげななぁ!」
【プロフィール】
名前:バサラ ♀
年齢:8歳
種類:猫(ノルウェージャンフォレストキャット)
勤務先:木地師の家
職種:ネズミと、木地師の仕事ぶりの見張り。
主な仕事内容:京都の町屋に多いネズミが木材をかじらないようにすることと、木地師が仕事をさぼらないように監視すること。
お給料:カリカリのキャットフードと、ほんまもんのかつお節。
好きなこと:ナイロン袋に入って振ってもらうこと(虐待やおまへんよ)。
嫌いなこと:自分よりもキレイな女性がうちに来ること。
現在の悩み:木地師の自分への扱いが雑なこと。もっとかまってほしい!
将来の夢:木地師と同時にあの世へ行くこと。どっちかが残されたらつらいやん。
撮影■山口規子
※女性セブン2017年2月9日号