日本各地には「前橋vs高崎」「高松vs松山」など、県内、同地域内でライバル心をむき出しにし合う都市が存在する。「あの街だけには負けたくない」という「都市バトル」を紹介する。(イラスト/福島モンタ・2017年1月28日更新)
札幌市vs函館市(北海道)
函館市民は札幌に強烈な対抗心
人口195万人の日本第5の都市で、北海道庁が置かれ、冬季五輪も開催された札幌。「函館で相手になるの?」と思う人も多いだろうが、函館市民には札幌への強烈な対抗心とプライドがある。
「函館は相手にならない」(札幌市民)
「函館は人口も面積も旭川より下だし相手にならない」 「札幌にはススキノがあるけど、函館の繁華街ってどこ?」 「函館の人は『くじら汁がないと正月を迎えた気がしない』というが、札幌では聞いたことがない。東北文化が色濃いんでしょう。方言も津軽弁に近いと思う」(全て札幌市民)
「函館の歴史は550年。札幌は100年」(函館市民)
「地元で優秀な生徒は札幌にある北海道大学には行かず、東京の大学に進学する」 「祖父の病状が悪化し、札幌の病院を医師に勧められたが『札幌はイヤ!東京の病院を紹介してくれ』と怒鳴っていた」(ともに函館市民) 「函館の歴史は550年以上。札幌はたかだか100年。函館の古い人は札幌を“奥地”と呼んでいます」(函館出身の文筆家・中村嘉人氏)
前橋市vs高崎市(群馬県)
県庁所在地を巡って対立する前橋と高崎
群馬県の県庁所在地である前橋と、人口や面積で上回る高崎には深い因縁がある。両市は長年にわたり、県庁所在地の奪い合いをしてきたのだ。 1871年10月、旧前橋藩(前橋県)と旧高崎藩(高崎県)などが一緒になって“第1次群馬県”が誕生し、最初の県庁は旧高崎城下に開庁した。
130年後の今も高崎市民は「県庁奪還」の思い
その後、両市の間で誘致合戦が起こり、1881 年、ついに政府の太政官布告により県庁所在地が高崎から前橋に改定された。 それから100年以上が過ぎた今も、高崎市民の“県庁奪還”への思いは消えておらず、「高崎駅前には高島屋もヤマダ電機もある。新幹線も停まる。市内総生産も人口もいまや高崎が上。前橋はいつまで群馬の顔気取りなんだ」と憤る。
長野市vs松本市(長野県)
「歴史的に長野が上に立つのは当然」(長野市民)
長野県の県庁所在地である長野市と県央に位置する松本市の“犬猿の仲”は有名だ。 「廃藩置県の時、長野を中心とする長野県が松本市中心の筑摩県を吸収合併した。歴史的に見ても長野市が上に立つのは当然。新幹線も通っているしね」(長野市民)
「長野はジジくさい」(松本市民)
「松本城をはじめ、松本には文化がある。松本市民芸術館があって、演劇が盛ん。クラフトや民芸家具などオシャレなイメージだけど、長野のほうはジジくさい」(松本市民)
川中島の戦いは今も続いている
そもそも、この争いの発端は、明治や江戸よりも古い。「もともと長野と松本は国が違う。川中島の戦いの時、上杉謙信が長野側で、武田信玄は松本城を根城としていた。それが同じ国になっているから、“好きで一緒になったわけじゃない”と。川中島の戦いは、400年以上経ってもまだ続いているんだね(笑い)」(ライター・北尾トロ氏)
新潟市(新潟県)vs金沢市(石川県)
日本海側の都市 新潟と金沢
「新潟は人口80万を超す日本海側唯一の政令指定都市。(人口46万人の)金沢なんて相手にならない」。そう新潟市民が息巻けば、 「新潟は“日本海側ナンバーワン”っていうけど、そもそも北陸なのか、東北なのか関東甲信越なのか、はっきりしろと言いたい。金沢こそ『ザ・北陸』ですよ」と金沢市民。
「金沢は雨が多くて一年中ドンヨリ」(新潟市民)
北陸新幹線開通による新潟市民の焦りは隠せないようだ。 「金沢が“新幹線が通った”と浮かれているのは気分が悪い。金沢は雨が多くて一年中ドンヨリしていますよ。新潟も雨が多いですが、四季を楽しむなら新潟のほうがふさわしい」(新潟市にある北方文化博物館・佐藤隆男専務理事)
「新潟美人?聞いたこともない」(金沢市民)
「新潟美人? 聞いたこともない。制服のスカートが短いのは知ってるけど、品がないですよね。その点、金沢女性はエレガント」(金沢市民) そんな両市に挟まれている富山県民は「いつも置いてけぼり」とぼやくのみ。富山の頭越しに石を投げ合うこの争い。決着はなかなかつきそうにない。
高松市(香川県)vs松山市(愛媛県)
「四国ナンバーワン」を争う高松と松山
“四国ナンバーワン”を激しく争っているのが高松(香川県)と松山(愛媛県)だ。高松は伝統的に四国の玄関口として栄え、現在も国税局をはじめとする国の監督官庁は高松に置かれている。 一方、人口では松山が高松を上回り、NHKの四国地方における拠点局も、高松ではなく松山に置かれている。しかし、狭い四国を二分しての戦いだけあって、そのスケールはなんとも微笑ましい。
「高松では大阪のラジオが聞ける」(高松市民)
「JR松山駅はいまだに改札の切符が手渡し」 「高松では大阪のラジオが聞ける。松山では聞けないでしょ?」 「アーチストのツアーで、四国で1か所しかやらない時は、たいてい高松に来る」(全て高松市民)
「高松なんて、うどんだけ」(松山市民)
「高松なんて、うどんだけ。松山には愛媛みかんも鯛も道後温泉もある」 「行ってよかった『日本の城』ランキングで松山城は6位。高松城は圏外」 「松山には東急ハンズがある。前は『ラフォーレ原宿』もあったんです。なくなったけど」(全て松山市民)
その他の都市バトル
■福島vs郡山
福島県の県庁所在地・福島と、人口で上回る郡山。県内トップを争うはずの福島vs郡山争いだが、自慢の仕方が妙なのである。 「仙台で買い物に行くなら福島の方が近くて便利。東北大学(仙台市)だって下宿せずに通学できる」(福島市民) 「東京により近いのは郡山」(郡山市民) お国自慢の争いではなく、「仙台に近い」「東京に近い」で争う、当事者不在の「代理戦争」と化している。
■浦和vs大宮
埼玉県は2001年にさいたま市に合併した後も、浦和vs大宮の「埼玉ダービー」が残る。もともと県庁所在地だった浦和に対し、県内で唯一対抗できる都市だった大宮には、「浦和に吸収されたわけではない」という気概がある。そのため、Jリーグの浦和レッズと大宮アルディージャは「埼玉ダービー」として最も盛り上がる戦いとなっている。
■岡山vs倉敷
「我こそが中国地方の中心」と、広島に対抗心を燃やす岡山県では岡山vs倉敷対決が根深い。1962年、100万都市を目指して合併話が進められたが、倉敷市が反対し、立ち消えとなった因縁がある。
■下関vs山口
山口県では山口vs下関が火花を散らす。山口市には「世界のユニクロ」があるのに対して、下関市は安倍首相の選挙区で「総理のお膝元」として鼻高々。それぞれ輩出した政財界の大物を自慢し合う関係にあるが、双方はこうツッコミを入れる。 「ユニクロは本社こそ山口だけど、柳井社長は宇部市の出身」(下関市民) 「安倍首相は下関の選挙区だけど、東京生まれで、本籍も長門市でしょ」(山口市民)
■四万十市vs四万十町
高知県からは一風変わった、四万十市vs四万十町の名称争いがエントリー。四万十市の方ができたのが早いが、名称が決まったのは四万十町の方が早いと、その名を巡って互いに一歩も譲らない。正直、紛らわしいだけのようにも思えるのだが……。
■長崎vs佐世保
九州随一の観光県である長崎県だが、県内では“内ゲバ”も起きている。長崎vs佐世保が「県内最大の観光名所」を競い合っているのだ。 「路面電車で出島や平和公園にも行ける。観光名所の数が圧倒的に違います」(長崎市民) 「佐世保にはハウステンボスがあって、観光客数も増えている」(佐世保市民)