囲碁や将棋などの世界で「人工知能と人間の対決」を見る機会が増えた。テクノロジーのさらなる進化は、この世界に何をもたらすのか。世界最先端の研究を続ける筑波大学助教・落合陽一氏が、近未来の姿を解説する。
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劇的に進化する人工知能と人間の関係は、どんどん変容していくでしょう。注目すべきは、「ポスト・トゥルース」への対応です。
これはオックスフォード英語辞典が昨年のワード・オブ・ザ・イヤーに選んだ言葉で、「客観的な事実(トゥルース)が世論形成にあまり力を持たず、感情への訴えかけの影響のほうが大きい」という意味です。
とくに政治の世界では、客観的な真実が重要ではなくなり、感情に訴えることが大事になってきました。イギリスのEU離脱や米国のトランプ大統領誕生などが、それを物語っています。
もっと噛み砕いて言えば、「感情に訴える虚構(フェイク)が真実を圧倒する世界」がやってきたのです。
実際に、フェイスブックなどのSNSでは、デマであっても、感動的な美談はどんどん拡散されます。逆に、客観的な情報はエモーショナルじゃないから、真実でも広まらない。ネット空間はどんどん虚構が増えていきます。
人工知能はこれに対抗するために、フェイスブックやツイッターなどで投稿されたデマを自動検知して、「このニュースは嘘の可能性があります」という警告を出すようになるでしょう。
今の人工知能は、真実かそうでないかを予測できる能力をすでに持ち合わせています。ただし、コンピュータ側が「デマチェッカー」機能を備えても、人間側がそれを使うかというと疑問です。真実ではないとわかっても、あえて感情に訴えるデマに乗ってしまうそれが、ポスト・トゥルースの人間たちです。
今は多くの人間が、感情的な願望で物事を判断しています。人工知能のほうが先に未来を知っているのに、人間は「そんなの信じたくない」といって耳を貸さない。
アメリカ大統領選でも、人工知能はいち早くトランプ勝利を予測していたのに、人間たちはギリギリまで「最終的にはヒラリーが勝つ」と思い込んでいました。人間の頭の中では、虚構と真実が逆転しているのです。