日本人の死因1位であり、年間35万人が亡くなるがん。闘病の最前線で現在、「がん治療の革命」と注目されているのが、「プレシジョン・メディシン」(精密医療、以下PM)だ。
従来のがん治療は、「胃がん」「肝臓がん」など、がんが発生した部位や進行状態によって「標準治療」と呼ばれる治療を施すのが一般的だった。だがPMのポイントは「部位」ではなく、「遺伝子」に応じた治療をすることだ。
医療ジャーナリストの田辺功氏が解説する。
「がんは、正常な細胞の遺伝子に変異が起こってがん細胞が生まれるところから始まります。その際、遺伝子の変異でできた異常なたんぱく質が、がん細胞を次々と増殖させます。この変異した遺伝子を狙い撃ちして、がん細胞の増殖を防ぐことがPMのねらいです。ひとりひとりの患者に応じた治療のため、“オーダーメイド治療”とも言われます」
具体的な治療プロセスは以下の通り。まず、患者の体内から採取したがん細胞の遺伝子を解析し、遺伝子変異のタイプを特定する。その後、ピンポイントでその遺伝子変異に作用する「分子標的薬」などを用いて治療する。
「たとえば同じ肺がんでも、抗がん剤が効くかどうかは使ってみないとわかりません。しかし、変異が生じたがんの遺伝子のタイプを特定すれば、それに直接作用する分子標的薬を投与できます。事前に薬の効く可能性の高い患者を絞り込むことで、治療効果が格段に上がります」(田辺氏)
後述する大規模臨床試験によれば、肺がん治療では、従来の抗がん剤が3割の患者に効果的だったのに対し、遺伝子のタイプを絞り込んでから分子標的薬を投薬すると、7割の患者に効果があった。
また、従来の治療法では抗がん剤が正常な細胞まで傷つけることで副作用に悩まされるケースが多かったが、遺伝子変異に着目するPMなら副作用を少なくすることができる。無駄な投薬が減り、医療費削減につながるメリットもある。