長い年月をかけて培った北朝鮮の悲願が叶う日が近づいている。
1948年9月9日の建国以来、北朝鮮は、北朝鮮主導で朝鮮半島を統一することを最終目標としてきた。多くのコリアウォッチャーが誤解しているが、彼らは単に現在の体制維持のために軍事力を強化しているのではない。
北朝鮮にとって核兵器開発は朝鮮統一にとって必要不可欠なのだ。遡れば1950年、金日成将軍率いる朝鮮人民軍は朝鮮半島を統一すべく南進したが、米国が率いる国連軍に阻止された。この時、金日成は米国の軍事介入が朝鮮統一の最大の障壁であることを学んだ。
以後、北朝鮮は経済発展を後回しにして、限られた人的資源と費用を優先的に投入し、核開発を進めた。“偉大なる首領様”の思想を受け継いだ金正日総書記と金正恩委員長は、「米国の中心部に核兵器を撃ち込む能力を見せつければ、米国は朝鮮半島の警察官役をやめるだろう」と踏んで、大陸間弾道弾と潜水艦発射弾道弾(SLBM)を開発した。
これにより米朝関係は緊張をはらんだが、そこに北朝鮮の最終目標を後押しするもう一人の人物が現れた。
米国の大統領、ドナルド・トランプ氏である。
「アメリカ・ファースト」を掲げて同盟国に軍事的な負担を求めるトランプ氏は、在韓米軍の規模縮小を進めるだけでなく、撤退も「現実的選択肢」の一つと考えているはずだ。韓国侵攻の際、米国の軍事介入を是が非でも阻止したい北朝鮮にとっては理想的なシナリオである。
さらに、合理的なビジネスマンであるトランプ氏は、現在は中断している米朝協議を再開し、「経済特区で産業育成に協力するから、核兵器を手放せ」と金正恩体制に懐柔策を持ちかける可能性がある。
●文/武貞秀士
たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。
※SAPIO2017年2月号