日本の予防医療の現状に、国民はもっと危機感を抱くべきだと指摘するのは医師で医療ジャーナリストの森田豊氏だ。
「これからの時代、本当に重要なのは病気になってから治療する昔ながらの医療でなく、予防のための医療、具体的にはワクチン接種やがん検診、人間ドックなどです。それらの普及が、欧米に比べて大きく遅れている状況があります」
本誌・週刊ポスト前号では〈老化は『ワクチン』で防ぐ!〉と題し、病気の根本原因となる「老い」をターゲットとした抗加齢医学の最新情報をレポートした。そこでは認知症やがん、感染症を予防する「ワクチン」をはじめ、病気を未然に防ぐ取り組みに世界中の医療関係者が注力していることを報じた。
森田氏は、そうした潮流があるにもかかわらず日本が予防医療の後進国であることに警鐘を鳴らしているのだ。
実際、日本の予防医療が先進国の中で低レベルだと示すデータは多い。最たるものは、他国では接種が義務づけられているワクチンが日本では義務化されていない「ワクチンギャップ」の存在である。
たとえば日本では、発症すると激しい下痢や嘔吐で重症化する割合が高い「ロタウイルス」や「おたふく風邪」のワクチンを公費負担の定期接種としていない。いずれも、WHO(世界保健機関)が接種を推奨し、多くの先進国が公的予防接種とするワクチンである。
また、細菌性髄膜炎を発症する「ヒブ」や「小児用肺炎球菌」のワクチンが2013年度、「B型肝炎」が2016年10月にようやく定期接種化されるなど、国の対応の遅れが際立つ。そして、森田氏は「がん検診も遅れている」と指摘する。
「欧米のがん検診受診率は70~80%と高いが、日本は30~40%程度です。とくに子宮頚がんやマンモグラフィーを受診する割合は先進国のなかで極端に低い」
普及啓発がさかんに行なわれている印象が強いがん検診だが、受診率はOECD最低レベルというから驚かされる。
※週刊ポスト2017年2月10日号