今年1月、警察庁が「75歳を超えるドライバーの死亡事故率は2倍」と発表し、全国で高齢者向けの免許自主返納キャンペーンに拍車がかかっている。では、人命を預かるプロのドライバーの場合はどうなのか。
警察庁がまとめたタクシー(ハイヤー含む)運転手の年齢別事故件数推移をみると、全体の事故件数が年々減少している一方で、70歳以上の運転者による事故件数は1298から2402になり、事故率(16.3%)は10年前(5.4%)の約3倍だ。タクシーの高齢ドライバーの割合が増え、その分、件数、事故率とも上昇したと考えられる。
一体、75歳以上のタクシー運転手は何人いるのだろうか。本誌は全国の主要なタクシー会社と組合にアンケート調査を行なった。
まず「大・日本・帝・国」と呼ばれる東京の大手4社。大和自動車交通は70~75歳が85人。乗務員の定年は60歳から67歳まで延長が可能で、さらに特別勤務という形で75歳まで乗務できる仕組みだという。
日本交通は70~74歳が86人、帝都自動車交通は70~74歳が45人で「75歳超のドライバーはいない」と回答(国際自動車は無回答)。関西、中京、九州などを拠点とする大手タクシー会社・組合6社も高齢ドライバーの人数は「回答せず」だった。
高齢者ドライバーによる事故は今や深刻な社会問題である。安全に最も配慮し対策を講じるべきタクシー業界が、「とりまとめを行なってない」「回答を見送りたい」との対応は、公共の交通機関であるという自覚さえ疑いたくなる。75歳オーバーのプロ運転手がどこにもいないはずはない。
法人も個人もタクシー運転手は試験に合格し、地域毎にある国交省の指定登録機関に登録しないと営業できない。
それによると、東京地区(東京タクシーセンター登録)のタクシー運転手のうち、75~79歳は「2522人」(法人1712人、個人810人)、80歳以上が「442人」(法人153人、個人289人)もいる。
大阪地区(大阪タクシーセンター登録)は75歳以上が1416人(80歳以上を含む。法人1080人、個人336人)で、なんと個人タクシー運転手の1割以上が75歳オーバーだった。
しかも意外なことに人数は個人タクシーより法人のほうが多い。大手タクシー会社にいないというなら、どこにいるのか。
「タクシー業界はどこも運転手不足。大手には75歳といった最終定年があるが、中小は本人が希望し、長年、無事故無違反の優良ドライバーなら80歳をすぎても乗務させる会社は結構ある。大手で75歳を迎えた運転手は優良ドライバーが多いから、大手を退職したあと中小の法人タクシーに移っていく」(業界関係者)
※週刊ポスト2017年2月10日号