昨年12月、朝鮮人民軍の特殊作戦大隊が韓国大統領府「青瓦台」を標的とする大規模襲撃訓練を行った。訓練を報じた北朝鮮メディアは「青瓦台を火の海にし、南朝鮮傀儡どもを殲滅する」と気炎を上げたが、朝鮮半島情勢に精通する拓殖大学大学院特任教授・武貞秀士氏が、北朝鮮が抱く半島統一の野望について解説する。
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北朝鮮が核を手放す可能性は皆無に近い。北にとって「38度線の南にあるソウルや釜山は共和国(北朝鮮)の領土の一部」であり、そこを「侵略主義者の米国とソウルの傀儡政権が不法に占拠している」というのが彼らの信念なのである。
そして、北朝鮮は在韓米軍の縮小・撤退の動向を窺いながら時間稼ぎをして核放棄の圧力を凌ぎ、ミサイルの射程延長、弾頭の小型化、軽量化を進めてきた。
この時、北朝鮮の追い風となるのが、韓国内で勢力を拡大する対北融和派だ。朴槿恵大統領を弾劾に追い込んだ韓国国民は、既得権益を独占する保守層に強い怒りを抱いている。また、現在の韓国では2代続いた保守政権の反動で「次は北朝鮮と話し合いたい」と考える融和的な国民が増えている。
加えて、北朝鮮の影響が強い労働組合と教職員組合の懐柔策が効を奏し、韓国内では北朝鮮への対決姿勢が薄まっている。言わば、「精神的な武装解除」が進んでいるのだ。
しかも、次期大統領の有力候補である最大野党「共に民主党」前代表の文在寅氏や城南市長の李在明氏はいずれも対北融和派であり、同じ民族同士の話し合いによる平和統一が可能と考える。前国連事務総長の潘基文氏でさえ対話優先論をとっている。
対北融和派は、「米韓が軍事力をチラつかせるから北朝鮮はやむを得ず軍事力で対抗する」という発想のため、まず韓国側から脅威を与える軍事力を取り下げるべきだと主張するだろう。精神面に加えて現実的にも在韓米軍の高高度防衛ミサイル配備反対運動が勢いを増しており、北朝鮮の対南攻勢が勢いを増す結果となっている。
●たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。
※SAPIO2017年2月号