世界中の先進国で、「医療」は大きな転換期を迎えている。病気を患ってからの「治療」ではなく、「予防」の段階に力を注ぐ──そのほうが国民の健康寿命は延び、医療費も削減できるからだ。にもかかわらず、日本には「予防後進国」とも呼ぶべき由々しき状況がある。取材を進めると、この国の医療ムラの握る既得権の存在が浮かび上がってきた。
そもそも、予防医療が重要とされる理由の一つは、患者の将来的な重病リスクを抑えることが、国の医療費削減につながる点にある。
医療費が年間40兆円に達し、国家財政を大きく圧迫する日本では特にメリットが大きいはずなのに、予防のためのワクチンや検診が普及しない。その背景には「予防はカネにならない」という事実がある。医師で医療ジャーナリストの森田豊氏は保険制度に問題があると指摘する。
「現在の日本の医療制度のなかで保険点数になるのは、『治療』の項目ばかりです。一部のカウンセリングや栄養指導は保険適用ですが、基本的には医師は治療を行なって初めてお金になる。患者の健康を真に考える良心的な医師は予防医療に力を入れますが、利益を追求する医師は儲からない予防の話はしたがらない。そういう制度設計になっているのです」
実際に、医師の受け取る「カネ」は予防と治療でどれほど違うのか。