多くの中国人観光客が訪日する春節(旧正月)を前に、大手ホテルチェーンのアパが中国の“宿泊ボイコット”に直面している。
ホテルの客室に置かれたアパグループの元谷外志雄・代表の著書『本当の日本の歴史 理論近現代史学II』が南京事件や慰安婦問題の強制連行説を否定した内容であったことを中国の政府機関が問題視。国内の旅行サイトや旅行業者にアパホテルの利用中止や広告の撤去を要求し、一向に収束の気配が見えない。
南京事件や慰安婦問題となれば、当然黙っていないのが朝日新聞のはずだ。ところが、今回は事実経過を伝えるのみで、アパを批判することもない。やけにおとなしいのである。
実はアパホテルの客室には、それらの歴史本と並んで、朝日新聞出版という朝日のグループ会社から出た本が置かれている。2012年に発行された『まんがで学ぶ成功企業の仕事術 アパホテル~利益を生み出す逆張りの成功哲学~』という漫画本で、元谷代表と、妻の芙美子・アパホテル社長の自伝的なサクセスストーリーが描かれている。
冒頭から、「おまえが社長になって赤字のホテル部門を立て直すんや!」と元谷代表に言われた芙美子夫人が、「お客を真心込めてもてなす花ごころのおもてなし」によって、ホテルを急成長させていく物語だ。朝日新聞出版の関係者が言う。
「アパホテルは各客室に関連本を置くため、かなりの買い取り数が見込める手堅い本ということで出版することになった。制作は編集プロダクションに外注し、社員はほとんどタッチしていません」
しかし、朝日はその後、この本で二度も気まずい思いをすることになる。一度目は2014年8月、朝日新聞が慰安婦報道の誤報を認める検証記事を掲載した際、元谷代表が「大誤報の謝罪もない」「現状のままでは、朝日への広告出稿はない」と表明し、話題を呼んだ。
そして今回、中国で問題視されている歴史本と朝日新聞出版から出た本が同じ客室に並べられていることに「社内ではどうしたらいいかという声が広がっている」(同前)という。もっとも、気まずいのはアパも同様のようで、
「弊社が制作したものではなく、バラエティ・アートワークス様(編集プロダクション)が企画され、弊社は取材に応じるかたちで協力したものです。したがって、本書に関して朝日新聞出版と弊社は直接関係ありません」(アパグループ秘書課)
と朝日との関係は否定する。元谷氏は客室本の撤去を拒否する姿勢を表明しているが、この本に限ってはハードルは低そう。
※週刊ポスト2017年2月10日号