ここ数年、白鵬、鶴竜、日馬富士のモンゴル3横綱が番付上位を独占し、大相撲の本場所13日目以降はモンゴル人勢のトーナメントのようになっていた。モンゴル勢同士だと気遣いが生まれるらしく、たとえばモンゴル人大関・照ノ富士は、昨年3回もカド番に追い込まれながら、いずれも同郷の先輩に勝ちカド番を脱出した。
ところが、春場所から稀勢の里という日本人横綱が加わることで、千秋楽の結びの一番まで、本当に優勝の行方が分からない場所が増えると期待されている。
「そうした期待が生まれるのは、かつて千代の富士(先代九重親方、故人)と北勝海(八角理事長)という九重部屋の二枚看板が君臨した時代に、ガチンコ横綱の大乃国(芝田山親方)が孤軍奮闘したことを彷彿させるからです」(二所ノ関一門関係者)
かつて、双葉山の69連勝超えを狙っていた千代の富士の連勝を53で止めたのが大乃国だった。
それは、白鵬の連勝を63で止めた稀勢の里の姿とも重なる(2010年11月場所2日目)。2013年にも稀勢の里は、43連勝中だった白鵬を寄り倒しで破っている。
「大乃国は、ガチンコだけに横綱として負け越す(1989年9月場所)という大失態も演じたし、優勝回数わずか2回、横綱としての優勝は昇進3場所目の1回だけにもかかわらず、ファンからは愛された。
土俵上で馴れ合いにならないよう、力士に友達は作らないと公言する“変人”である稀勢の里に、長年の相撲ファンは同じく変人横綱・大乃国をダブらせているんです」(別の後援会関係者)
新横綱・稀勢の里は、モンゴル勢が席巻してきた角界に「大乃国の再来」としての役割を期待されているといってもいいだろう。
実際、4横綱時代となれば、それぞれがバランスよく優勝回数を積み重ねるとは考えにくく、「勝てなくなった横綱から引退」という時代がやってくるだろう。
「人気力士だった魁皇が38歳11か月まで土俵に上がり続け、幕内在位107場所通算879勝、生涯通算1047勝という記録を作れたのは、魁皇が綱を取れず、大関のままだったから。金星1個につき協会は場所ごとに褒賞金を支給するため、平幕に負けがかさむ横綱に対して、引退勧告を出すことになる。
気がかりなのは、稀勢の里が常にガチンコでぶつかるだけに、上位陣に包囲網を築かれがちで、ケガの心配も増えること。久々の日本人横綱が短命に終わらないか、心配する関係者も少なくない」(前出の担当記者)
悲願の綱取りを達成した苦労人・稀勢の里を待ち受ける苦難の道のり。大きな期待がその双肩にかかっていることだけは間違いない。
※週刊ポスト2017年2月10日号