与野党の議員からの質問に首相や大臣らが答える国会答弁。その質問の内容は事前に通告するのが慣例になっている。国会の審議を円滑に運ぶためというのがその理由。そして、その質問をもとに、各省庁の官僚が首相や大臣は話す答弁を作成。議会では、その原稿を読みながら、議論が進んでいくこととなる。
首相の施政方針演説や外国でのスピーチでは、いかに聴衆を惹きつけるか、相手国に良い印象を与えるかが重要だが、これも首相が自ら原稿を書いているわけではない。
安倍首相の場合、慶応大学教授で内閣官房参与の谷口智彦氏が“スピーチライター”を担当。経済誌『日経ビジネス』の記者出身という異色の経歴の持ち主で、第一次安倍政権では国際広報を担当する外務副報道官だった。英語が堪能で、麻生外相の訪米時の演説原稿を英語で書いた実績などから、安倍首相がスピーチライターに指名したという。
「谷口さんが書いたスピーチに首相が自分なりに手を入れたり、“こんな感じの言葉を入れてくれ”と注文して書き換えさせたりしているようです」(政治アナリスト・伊藤惇夫さん)
2015年4月、安倍首相はアメリカ議会でスピーチを行ったが、その原稿には「次を強く」「顔を上げ拍手を促す」といった“ト書き”のような文言もあった。これも谷口氏のアドバイスによるものと見られている。
「歴代の首相の中にも、スピーチライターを使っていた人はいます。例えば鳩山由紀夫さんの場合は劇作家の平田オリザさん。誰を指名するかの基準はないので、そこに首相の考えが反映されるとはいえますね」(伊藤さん)
アメリカの歴代大統領の名演説も多くはスピーチライターが書いたもので、リンカーンの「人民の人民による人民のための政治」もスピーチライターの手によるものといわれている。ちなみにトランプ大統領のスピーチライターは31才のスティーブン・ミラー氏。トランプ政権で初代司法長官に指名された、ジェフ・セッションズ上院議員の演説秘書を務めていた人物だ。
世界の政治も、日本の国会も、“影の存在”なしには動かないようだ。
※女性セブン2017年2月16日号