全米で75万部のベストセラーになったノンフィクション『死すべき定め』(アトゥール・ガワンデ著、2014年)では、がんで余命わずかと宣告された女性が妊娠・出産を経て闘病する模様などが描かれている。
その本には興味深い研究結果がいくつかある。自身の余命の中で、最期に叶えたい目標について正直に主治医と話をした末期がんの患者は、話をしなかった患者と比べて人工呼吸器を付けられたり、ICUに入れられる割合が少なく、あまり苦しまず平穏に余生を過ごせたというのだ。
また、最期まで化学療法にこだわった患者より、治療を途中で中止した患者のほうが、25%も長生きするという逆転現象が見られた。そして、前者の遺族が深刻なうつ病に陥ったケースが多いのに比べ、後者の遺族は明らかに平穏に暮らせているという。
余命への向き合い方は、家族のその後にまで大きく影響するということだ。
死の床でも「美学」を貫いたのが松田優作(享年40)だ。親の愛情に飢えて育った松田は自らの家庭を何より大事にしていた。そんな彼だけに、余命宣告を受けてからも、自らの身より家族のことを心配していたという。
「末期の膀胱がん発覚後、優作さんは、『心配をかけたくないのでカミさんには言わないでほしい』と医師にきつく伝えました。がんが進行して美由紀夫人に知られた後も、『元気になって龍平の運動会に行こうな』と当時まだ20代だった美由紀さんを励まし続けたことは有名です」(ベテラン芸能記者)
当時、松田には龍平(6才)、翔太(4才)、長女(2才)という3人の子供がいた。幼い子供を残して旅立つことは痛恨の極みだったはずだ。
「それでも優作さんは、『息子2人に父親の弱いところは見せられないので絶対病院に連れてくるな』と美由紀さんに言い聞かせました。それで美由紀さんは娘だけ連れて見舞っていました。