高齢ドライバーをめぐる問題は悩ましい。事故リスクの半面、いつまでも運転し続けていたい気持ちもよく分かる。それがタクシードライバーとなればさらに難しい。彼らにとって生活の糧であると同時に、乗客の安全を守る重大な責務があるからだ。
警視庁がまとめたタクシー(ハイヤー含む)運転手の年齢別事故件数推移をみると、全体の事故件数が年々減少している一方で、70歳以上の運転者の事故率(約16%)は10年前の3倍だ。タクシーの高齢ドライバーの割合が増え、その分、件数、事故率とも上昇したと考えられる。では実際に高齢ドライバーはどれだけいるのか。
法人も個人もタクシー運転手は試験に合格し、地域毎にある国交省の指定登録機関に登録しないと営業できない。
それによると、東京地区(東京タクシーセンター登録)のタクシー運転手のうち、75~79歳は「2522人」(法人1712人、個人810人)、80歳以上が「442人」(法人153人、個人289人)もいる。
かつて道路交通法では75歳以上のドライバーは車に「もみじマーク」(高齢運転者標識)の掲示が義務づけられていたが、2008年の改正で70歳以上の「努力義務」となった。しかし、町を走るタクシーにもみじマークはほとんど見ない。
理由を各社に訊ねると、「義務ではなく努力目標なので、当社は付けていない」(日本交通)ほか、大和自動車交通、帝都自動車交通も会社としてもみじマークは付けていないと説明した。
努力目標を守る努力をしないのは、高齢ドライバーであることが客にわかると、営業的にマイナスだとタクシー会社側が考えているからではないか。
無論、高齢タクシー運転手を一括りに安全面で問題があると言うつもりはない。シルバー世代の運転手の話を聞くと、安全に自信を持っている者が多い。78歳の個人タクシー運転手の話。
「タクシーで一番安全なのはシルバードライバーですよ。事故を起こしやすいのはまだ道を知らない若い運転手や、家族を養うために無理をしがちな子育て世代。ベテランはどの道を何時に走ればどんな車の流れなのかわかっているから、無理をしないのです」
一方で、今年で法人ドライバー歴43年目という76歳男性は引退を考えていると打ち明ける。
「うちの会社は65歳定年ですが、年金だけでは足りないから、その後もアルバイトで続けてきた。ただ、最近は耳が遠くなって、物忘れも時々ある。
先日、よく知っている道なのに、一時的にどこを走っているかわからなくなったことがあったので、次の免許更新で引退しようと決めています」
自らの仕事に誇りを持つことと同時に、的確な引き際の判断も「プロ」の責任だろう。
※週刊ポスト2017年2月10日号