国会に舞台を移した天皇の譲位論争の裏に、何やら不穏に蠢く影がある。安倍政権の最深部にアクセスできる元TBSワシントン支局長・山口敬之氏による解説をお届けする。
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昨年7月NHKのスクープで幕を開けた天皇譲位問題は、1月11日に開かれた有識者会議が特例法での一代限りの今上陛下の退位を実現するという方向性を明確にした。これを受け政府は5月上旬にも通常国会に法案を提出する方向だ。
官邸の狙いは明確だ。譲位を制度化するには、あらゆる状況を想定した制度設計、遺漏なき法案化、意図せざる退位や皇位継承者の即位忌避の防止など、膨大な議論が必要になる。
昨年12月に83歳になられた今上陛下が示された退位のご意向をできるだけ早く実現するには、特例法で一代限りの退位を目指すしかないというのが官邸の考え方だ。
これに真っ向から反対の姿勢を示しているのが野党、とりわけ民進党だ。
1月20日には蓮舫代表が有識者会議の議論について結論ありきの議論として批判した。民進党が求めているのは、皇室典範の改正による譲位の制度化だ。これは民進党の皇位検討委員会が昨年12月21日付けで発表した論点整理に明記されている。
民進党内の議論と発信をリードしているのは、蓮舫代表ではなく野田佳彦幹事長だ。
最大のポイントは、野田が総理経験者だという事である。首相は国政の状況等を陛下に説明する「内奏」をおよそ2~3か月に一度の頻度で行う。陛下のご意向が議論の核心と密接にかかわるこの問題では、天皇皇后両陛下と直接言葉を交わす機会があった野田の言葉の説得力は、民進党内では突出している。
「天皇陛下のお言葉を聞き、噛み締めてみると、ご自身お一人限りの事を言っているわけではなく、皇位の安定的な継承も願いながら国民に対して議論を望んでいるという趣旨だった」
「お言葉を忖度すれば、皇室典範改正という結論に結びつく」
野田のこうした発言に注目が集まるのは、7月のNHKのスクープから8月のお言葉、さらには皇族中枢や宮内庁側から漏れてくるさまざまな情報と呼応しているからでもある。
●やまぐち・のりゆき/1966年東京生まれ。ジャーナリスト。アメリカシンクタンク客員研究員。1990年慶應義塾大学経済学部卒、TBS入社。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月TBSを退職。安倍政権の舞台裏を克明に綴った『総理』が反響を呼ぶ。
※SAPIO2017年3月号