近年、急増する外国人観光客の中には、清潔感に溢れ、なおかつ高機能の日本のトイレに驚く人が後を絶たないという。トイレが清潔感を保てるのは清掃員の努力の賜物だが、男性職員が女性トイレを清掃することを拒むことはできるのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
ビルの清掃会社で働いています。困っているのは夜間に女子トイレの清掃もしなければいけないこと。仕事とはいえ、抵抗感があり、会社には勘弁してほしいと願い出ているのですが、それだと給料を下げるしかないといわれました。やはり、我慢して女子トイレの清掃を続けなければいけないのでしょうか。
【回答】
労働契約で職種や職場を限定する合意があれば、使用者もその合意に拘束され、個々の労働者の了解なくして職種や職場を変更できません。そうした合意がなければ、労働契約は包括的に労働力の使用を使用者にゆだねる契約であると解されるので、使用者には労働者の働く場所や職種を決めることができ、労働者はその業務命令に従う義務があります。従わないと、就業規則により、解雇を含む不利益な処分を受けます。
もちろん使用者は、職種の限定がないからといって、何でも命令できるというものでもありません。違法となる行為をする業務命令は、それ自体が違法です。従わなくても、業務命令違反にはなりません。さらに違法でなくても、労働者の人格を無視し、受忍限度を超えるような業務命令も効力を持たないと解されます。なので、これらの業務命令を拒否しても、懲戒や解雇はできません。逆に、強要すると使用者側に不法行為責任が生じます。
以上から明らかなように、女子トイレの清掃を拒否できるかは、当初の労働契約でどのように定められたかが第一の問題です。ビルの清掃業務を職種として契約したときには、当然トイレの掃除も含まれていたはずで、それ以上の特定がなければ、自分から女子トイレの掃除は除外するように求めて契約していない限り、あなたが提供すべき労務に含まれます。
よって使用者は、あなたに女子トイレ掃除を命じることができます。なぜなら、トイレ掃除は違法行為ではないからです。性別を問わず、トイレ掃除の業務は実施されており、女子トイレの掃除だからといって、作業員の人格を傷つけるとは解されないと思います。
今後も利用女性がいない時間帯に作業するなど工夫しながら、仕事をするほかありません。
【弁護士プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2017年2月17日号