毎日のように世界中を揺るがしているドナルド・トランプ・米国新大統領。彼の大胆で乱暴な物言いは、確信犯なのか思いつきなのか。ビジネスマンとして大成功していると言われるが、果たして彼のビジネスセンスは本物なのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、トランプ新大統領の真価について解説する。
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世界最大の英語辞典『オックスフォード英語辞典』は2016年の「ワード・オブ・ザ・イヤー(今年の単語)」に、形容詞「ポスト・トゥルース(post-truth)」を選んだ。その意味は「世論形成において、真実が感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」で、「ポスト・トゥルースの政治」という組み合わせでよく使われたという。つまり「真実などどうでもいい政治」──まさにドナルド・トランプ新大統領のことである。
トランプ氏は、本当に大統領が務まるのか疑問に思うほど記憶力がなく、しかも自分が批判されると子供のように反射的・反作用的に相手を攻撃する。
たとえば、1月8日のゴールデングローブ賞授賞式のスピーチでトランプ批判を展開した女優のメリル・ストリープを「ハリウッドで最も過大評価された女優の1人」とこきおろしたが、実は2015年8月の雑誌インタビューでトランプ氏はストリープを「素晴らしい女優だ。人としても立派だよ」と絶賛していた、というオチが付く。わずか1年半前のことだから、彼は言った瞬間に言ったことを忘れているらしい。
アメリカには「脳と口がつながっていることを確認してから口を開け」という(親が子供を叱る時によく使う)表現があるが、どうやらトランプ氏は「脳と口がつながっていない」ようである。
トランプ氏のトヨタ自動車に対する警告も噴飯ものだった。彼は「トヨタはメキシコのバハにアメリカ向けカローラの新工場を建設するそうだが、とんでもない!」と計画撤回を求めたが、これはバハにある既存のピックアップトラックの工場とグアナファト州に建設中のカローラの新工場を混同したものであり、明白な事実誤認だ。
カローラを生産しているのはカナダのケンブリッジ工場で、そこの能力が足りなくなったから、メキシコに新工場を建設しているのだ。もともとアメリカの雇用とは全く関係がないわけで、「とんでもない」のはトランプ氏のほうである。