職員が生活保護に関する業務に携わる際に、「なめんな」と書かれたジャンパーを着ていたことで小田原市役所に批判が集まった。
もちろん、不正受給は問題だが、くれぐれも誤解してはならないのは、生活保護は国民に与えられた権利であり、大多数の人が制度を正しく利用していることだ。実際に不正受給の割合は全体の5%程度しかない。
今回の小田原市の件でも「ごくわずかの不正受給をクローズアップするのは、制度の趣旨に反する」との批判も寄せられている。
大阪市福祉局生活福祉課の担当者はこんな苦悩を打ち明けた。
「生活保護制度は性善説に基づいており、最初から相手が自治体を騙すことを想定していません。その一方、あまり要件を厳しくすると、本当に必要な人に届かないというジレンマがある。過去に北九州市では、市営住宅に住む50代の障害を持った男性が生活保護の申請書を交付してもらえず餓死しました。同じく北九州市で生活保護を打ち切られた50代の元タクシー運転手が餓死したこともあります。こんな悲劇は絶対に避けるべきです」
今回、問題となった小田原市では職員全員に対して人権教育の研修を行うことにしている。小田原市福祉健康部生活支援課長の栢沼教勝さんは言う。
「不正件数の多寡は問題ではありません。生活保護を受けないように一生懸命、まじめに頑張っている人も大勢いますし、多くのかたがたは本当に生活に困って生活保護を受給しています。不正受給により、そうしたかたとの不公平感が広がることが最もよくない。私たちはこれからも受給者を手厚くサポートする一方、不正受給には厳しく対処する方針です」
生活保護制度に詳しい関西国際大学の道中隆教授はこれからの生活保護について、「お金を給付するだけではダメ」と言う。
「お金をもらうだけだと人間ダメになるので、自立意欲や人間の尊厳を損なうことのないように自立支援が重要です。支援策が弱いから生活保護からの脱却が難しくなり、悪質な不正受給や貧困ビジネスにつけ入るすきを与えてしまう。
すると不正受給は国民の生活保護への制度不信となり、受給者へのバッシングや社会の不公平感が増して、最終的には保護が必要な人まで排除することにつながります。
それを避けるためにも、雇用保険や年金など中間的なセーフティーネットの充実やきめ細かい自立支援策の整備こそが必要です」
生活保護世帯で育った子供の4人に1人は大人になって再び生活保護を受けるというデータもある。“広がる格差”と“貧困の連鎖”を断ち切るためにもそれらの支援策は欠かせない。
今日も日本中で生活保護の担当職員が憂うつな顔で激務をこなしているかもしれない。彼ら、彼女らの表情が晴れやかになる日は来るだろうか。
※女性セブン2017年2月16日号