クルマの電動化、自動運転、はたまたIoT(モノのインターネット)の適用など、新世代テクノロジーの台頭で激動が巻き起こっている自動車業界。自動車メーカー同士、あるいは自動車メーカーとIT企業、電機メーカーといった異業種間の合従連衡が次々に起こるなか、2月6日、スズキがトヨタ自動車と業務提携に関する覚書を締結したと発表した。
この提携により、ライバル陣営の勢力地図はどう塗り替えられていくのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。
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トヨタとスズキが業務提携の検討に入ったと最初に発表したのは昨年10月。この時は自動車業界の名物オヤジとして知られる鈴木修・スズキ会長(87)と、鈴木氏と親子ほども歳が離れた豊田章男・トヨタ社長(60)が席を並べ、「一緒にやっていくということは決めた。これから何ができるかゆっくり考える」と口を揃えた。
それからおよそ4か月後の今回の覚書で取り決められたのは、環境、安全、IT(情報通信)など幅広い分野で共同研究を行うということで、具体的な提携内容はこれから決めるとのこと。
それらの分野はどれも、自動車メーカーであれば共同研究の候補としていのいちに挙げるもので、決断の早さが身上の鈴木修氏なら1秒で決めてもおかしくない。それを4か月もかけてようやくポリシーメモにしたというのだから、提携が業務そのものよりトヨタとスズキが身内のような関係になることに比重を置いたものだったことは明らかだ。
それはさておき、フォルクスワーゲンとの提携破談で宙に浮いていたスズキが事実上、トヨタ陣営に入ったことで、国別でみれば量産車メーカーを最も多く抱える日本の自動車業界の“戦国時代”も、いよいよ頂上決戦がほの見えてきた。
資本関係の有無を抜きにして提携の相関でみると、トヨタ、マツダ、スズキ、ダイハツ工業、スバル(富士重工業)に商用車の日野自動車、いすゞ自動車を加えたトヨタ陣営、三菱自動車を傘下に従えたルノー・日産陣営、そしてホンダの三つ巴という情勢である。
勢力で圧倒的なのはトヨタ陣営。前述のメーカーの台数を単純に足せばグローバルで1800万台超というとんでもないメガグループである。
対するルノー・日産陣営も、グローバルの勢力では結構なもの。三菱自動車を従えたことで台数は1000万台級に。トヨタ陣営と異なるのはルノーが介在するがゆえに海外メーカーとのつながりが深いことで、ダイムラーを仲間だと考えればさらに地盤は強固と言える。
その2大勢力の挟撃に遭っているのが第3の勢力、グローバル500万台規模のホンダだ。他者との提携はGMとの燃料電池開発のようにごく限られたものばかりで、世界的な合従連衡の流れの中で単独主義を保っている数少ないメーカーの1社である。
そのホンダにとって、メガグループが続々と誕生していることは大変なプレッシャーだ。倉石誠司副社長は「何でも単独という時代ではない。お互いに利益があるなら(提携に)前向きに取り組みたい」と会見で語った。
が、実際には自動車メーカー相手の包括提携は難しい。500万台という規模は今日においては中規模レベルだが、ブランド力や技術レベルをみれば、提携する場合はホストの側に立つべき存在。だが、今日ではホンダが下に従わせるような小規模メーカーの大半は、すでに他の陣営に取られてしまっている。
残っているのは韓国の現代自動車グループやイタリアのフィアット・クライスラー、フランスのプジョー・シトロエンなどだが、現代は相手とするには勢力が強すぎ、あとの2社もそれなりの名門。長年単独主義に過剰にこだわってきたことが裏目に出て、合従連衡の流れに完全に乗り遅れてしまったという状況だ。
数の面では劣勢にしか見えないホンダが、今後、相当苦しくなるという観測は、実はホンダ社内からも結構聞こえてくる。