米国内科学会と米国家庭医学会は1月17日、「60歳以上の血圧治療における目標値」を緩める新ガイドラインを発表した。
その内容のなかでも、とりわけ注目を集めているのが60歳以上なら「血圧150まで正常」という点が明記されたことだ。両学会は合わせて27万人以上の会員医師数を誇る米国最大級の臨床医の学会だけにそのインパクトは大きい。
「過去の臨床試験のデータを徹底分析した結果としての変更です。これまでエビデンスの少なかった60歳以上での血圧治療の目標値を高くした場合と低くした場合の比較、それぞれのプラスとマイナス面の検証がなされた。
結果、脳卒中など一部の既往症がある人以外は、150までは治療の必要がなく、治療の目標値についても150まで下げればよいと示しました」(医療経済ジャーナリスト・室井一辰氏)
現行の日本の基準では「年齢にかかわりなく140以上は高血圧」と診断される。なぜこのような違いが生まれるのか。
「これまで、若年層に比べて高齢者は“どのくらいまで血圧を下げるのがいいのか”を判断する材料が乏しかったが、米国ではエビデンスの蓄積が進んだということです。
具体的には60歳以上で血圧を下げすぎるとせきや低血圧、脳震盪といった副作用が起こりやすいことがはっきりしてきたと示されています」(同前)
ただし注意すべきは今回のガイドライン変更発表は単純に「歳を取ったら血圧は下げないほうがいい」という意味ではないことだ。室井氏が続ける。
「むしろ150程度まで下げるといいことがある、というニュアンスが含まれています。上が150、下が90という、緩やかな下げ方でコントロールした場合に、死亡率は1.64分の1に、脳卒中が1.13分の1、心血管疾患を1.25分の1に減らせる。
これは統計的に有意な差であり、“150よりも高い血圧には注意を払ってコントロールすることに意味がある”と臨床試験ではっきりした結果が出たわけです」
その一方で、当然ながら基準が緩まるならば、降圧剤を使って急激に血圧を下げる必要がなくなる人が出てくる。日本でもエビデンスの蓄積の成果が基準値に反映される日がくることが望まれる。
※週刊ポスト2017年2月17日号