安楽死は、「積極的安楽死」と「消極的安楽死」のふたつに分類される。前者は「医師が薬物を投与し、患者を死に至らす行為」。後者は「医師が治療を開始しない、または治療を終了させ、最終的に死に至らす行為」と定義される。
そして、「安楽死」とは別に「自殺幇助」という方法による死に方もある。こちらも、安楽死同様、「積極的自殺幇助」と「消極的自殺幇助」のふたつに分けて考えられる。前者は、「医師が薬物を投与するのではなく、患者自身が投与して自殺する行為」。後者は「回復の見込みのない患者に対し、延命措置を打ち切ること」で、一般的に日本語で表現される「尊厳死」がこれに当たる。
膵臓がんで余命半年と宣告され、安楽死を選んだスウェーデン人妻(68)の最期を看取った夫(72)はきっぱりとこう口にしたという。
「彼女がこの死に方を選んだことは正解だったと、いまは考えています」
世界の安楽死事情を取材するジャーナリスト・宮下洋一氏が取材の際に耳にした言葉である。
「欧米人は個人の死に寛容なところがあり、最初は反対しても最終的に安楽死という選択を受け入れる家族や友人が多い」(宮下氏)
安楽死が「正の効果」をもたらすと示唆する研究もある。オランダのユトレヒト大学病院が1992~1999年にかけて、安楽死した末期がん患者の家族・友人189人と末期がんで自然死した患者の家族・友人316人を対象に行なった調査では、安楽死を選んだ患者の家族・友人のほうが死後の悲しみやトラウマ的苦痛が少なかった。
研究チームは、患者に「お別れ」を告げる機会が生まれ、心の準備ができることで悲しみや苦痛が軽減されると分析している。
ただし、その上で、「この結果を安易な安楽死推奨に用いるべきではない」とも釘を刺した。確かに、安楽死の後、残された家族や友人にもたらされる「負の効果」が目立つ事例もある。
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患って体が思うように動かず、本人が安楽死を望むアメリカ人女性のケースでは、父親が『ちゃんと面倒をみれば死ぬ病気ではない。安楽死は絶対に許せない』と反対した。この女性は、安楽死のため単身スイスに渡り、本国に残した父に所在を知らせていません」(宮下氏)
安楽死が家族を分断することもあるわけだ。
※週刊ポスト2017年2月17日号