40年以上前に問題提起されながら、安楽死についての具体的な議論が進まない日本。日本では欧米の安楽死とは違う、終末期における『尊厳死』という考え方が広まっている。安楽死は、「積極的安楽死」と「消極的安楽死」のふたつに分類される。前者は「医師が薬物を投与し、患者を死に至らす行為」。後者は「医師が治療を開始しない、または治療を終了させ、最終的に死に至らす行為」と定義される。
そして、「安楽死」とは別に「自殺幇助」という方法による死に方もある。こちらも、安楽死同様、「積極的自殺幇助」と「消極的自殺幇助」のふたつに分けて考えられる。前者は、「医師が薬物を投与するのではなく、患者自身が投与して自殺する行為」。後者は「回復の見込みのない患者に対し、延命措置を打ち切ること」で、一般的に日本語で表現される「尊厳死」がこれに当たる。
尊厳死の法制化の動きが進まない一方で、医療現場では法律の明確な裏付けを得られなくとも、尊厳死は事実上容認された形となっている。
2007年、厚労省が終末期の延命治療に関する「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定したことがきっかけだ。入院患者の9割以上を高齢者が占める木村病院・院長の木村厚氏が解説する。
「このガイドラインには、中止できる治療法が書かれていなかったが、これを元に日本緊急医学会や全日本病院協会などが、より具体的な指針を作成。以降、本人と家族、複数の医師らが合意すれば、いくつかの延命治療を中止する『尊厳死』が許されるという認識となった」
実際に今、行なわれている尊厳死は主に次の5つである。
・胃ろうの中止
・中心静脈栄養法など点滴の停止
・人工透析の中止
・人工呼吸器を外す
・抗がん剤の投与中止
それでも課題はまだ多い。日本尊厳死協会副理事長の長尾和宏医師が言う。
「無用な延命治療をやめたことで苦痛から解放され、穏やかな最期を迎えた方々が増えているのは事実ですが、厚労省や各学会のガイドラインも延命措置の中止に対する医師の免責を保証するものではありません。尊厳死はいまも医師が殺人罪などで訴えられる可能性のある“グレーゾーン”の医療行為なのです」
※週刊ポスト2017年2月17日号