知っているようで知らない、おみくじの作法や読み方について、愛知県立大学・日本文化学部准教授の大野出さんと、15年以上にわたって全国のおみくじを収集・研究している、自称「おみくじマニア」の鏑木麻矢さんに聞いた。(2017年2月11日更新)
◆おみくじについて
Q:お寺と神社のおみくじの違いは?
︎A:寺院が漢文 神社は和歌が書かれている
「基本的に寺院が漢文なのに対し、神社のおみくじには和歌が書かれています。おみくじは武士や僧侶が占うもので、彼らは漢文をたしなんでいました。江戸時代までは寺・神社ともに同じものを使っていたのですが、明治時代、神仏分離が政府から言い渡され、神社は寺と違うものを扱うようになりました。神社で和歌が載せられるようになったのは明治中期。女性解放運動を推進していた、山口県の二所山田神社の宮司が、『女子道』という機関誌を創刊するための資金源として、和歌を載せたおみくじを出したことが始まりです」(大野出さん)
Q:昔は僧侶しか引けなかったって本当?
︎A:おみくじは仏様のメッセージを受けとれる僧侶が引くものだった
「おみくじはいわば占いで、仏様のメッセージを受けることができる僧侶が引くものでした。それがどんどんカジュアル化し、戦後は、今のように個々人が引けるものへと変化していきました」(大野さん)
今でも、僧侶がお経を唱えながら、くじを引くところも残っている。
◆おみくじの引き方
Q:正しいおみくじの引き方は?
︎A:参拝してから引くのが常識とされる
「なんの挨拶もなしに頼みごとをするのは失礼にあたります。おみくじが始まったころは、体を洗い清め、観音経を3回読み上げ、真言という呪文のようなものを計999回唱える、といった複雑で大がかりな儀式などを行った後でないと、引くことができませんでした。さすがにそこまではなかなかできませんが、手水舎でお清めし、きちんと参拝してから引くようにしたいものです」(鏑木さん)
Q:正しい『振りみくじ』の引き方は?
︎A:穴を下に向けて筒を振るのは本来の作法ではない
六角柱形の筒を振って、小さな穴から出てきた1本の棒に書かれたものと同じ番号のおみくじを受け取る『振りみくじ』の場合。
「中国では筒を少し傾けて、斜めに振り、1本だけ飛び出してきたものをおみくじとして占います。日本の場合、穴が小さく棒が出にくいからと、下に向ける人が多いのですが、本来の作法ではない。水平より少しだけ上に起こして振ると、1本だけ出てきます。下に振ったからといって運気が逃げるわけではありませんが、正しい作法で引くと、心の持ち方も変わってきます」(大野さん)
Q:何回引いてもOK?
︎A:同じ神社で良い結果が出るまで何度も引き続けるのはNG
同じ神社で良い結果が出るまで何度も引き続けるのは、神様、仏様を信用していない行為なのでよくない。
「ただし、違う神社や寺院で引くのは、違う神様や仏様の意見を聞くということですから、かまいません。同じところでも、先ほどは金運、次は健康運、と違う願いなら聞き入れてもらえるので、2回以上引いてもかまいません」(大野さん)
◆運勢の読み方
Q:縁起の良い順番は?
︎A:一般的には「大吉→吉→中吉→小吉→末吉→凶」
大吉と凶の区別はついても、吉と中吉、末吉と小吉の違いを明確に言える人は多くない。鏑木さんによると、運勢のいい方から順に、大吉→吉→中吉→小吉→末吉→凶が一般的。
「神社仏閣によっては大大吉や大凶が加わったり、末小吉、平(普通)、吉凶未分(吉か凶かまだわからない)など見慣れないものも」(鏑木さん)
Q:大吉よりも吉が良いって話も聞きましたが?
︎A:「凶よりも怖い大吉」「大吉より吉の方が◎」という解釈も
大吉を引いてラッキー!と手放しで喜ぶ、その前に――。
「良いことしか書いていない大吉ですが、実は凶よりも怖いんです。特に“大吉”には『運勢のピークは今。あとは下がる一方』などと記されていることもあります。昔は、死の危険もあるという恐ろしいことが書かれていたのです。今は底かもしれないけれど、行いを悔い改めれば、運気は上昇していくというのが凶です。大吉よりもいいのが吉。ほどほどに良い運気で、当面は安心できます。また末吉もこれから吉に向かっていくので、悲観せずに待つといい、という意味が込められています」(大野さん)
Q:おみくじに書かれている「待ち人」は誰のこと?
︎A:出会いたい人、出会うべき人
意外に意味をはき違えているのがこの単語。「若い人の中には、“恋人のこと”と勘違いしている人がいますが、本来は“出会いたい人、出会うべき人”。“恋人”も間違いではありませんが、その意味はもっと広いんです」(大野さん)
◆おみくじの扱い方
Q:引いたおみくじは結ぶ? 結ばない?
︎A:持ち帰るのが正しい
「専用のみくじ掛けを置いているところもありますが、あれは、ご神木に結ばれるのを避けるために寺社関係者が設置した苦肉の策。本来なら、いつでも読み返せるよう、持って帰るのが正しいのです」(大野さん)
持ち帰って、できればいつも目につくところに貼っておくか、持ち歩くといい。
「財布やお守り袋などに入れて持ち歩き、気持ちの整理がついたら、スクラップしておくと、後になって振り返ったときに新たな発見が得られるかもしれません」(鏑木さん)
Q:おみくじに有効期限はあるの?
︎A:有効期限は自分で決める
おみくじに聞いた願いや頼みごとは、解決したら一区切りとなる。
「おみくじでわかるのは、今のままならこうなる、ということですから、有効期限というのは自分で決めることになります。それが解決したら、手元に置いておいてもかまいませんが、処分したいなら、感謝してから寺社の古札納め所に持って行って、おたきあげをしてもらいましょう」(鏑木さん)