日本を代表するバレエダンサーでありながら、演劇や映画で“踊らない”表現も見せてくれる首藤康之(45才)。昨年はテレビドラマで松本潤(33才)の父親役を演じ、「あの人は誰!?」と話題になるなど、バレエファン以外からも注目を浴びた。
「確かに、バレエダンサーとしては珍しいタイプかもしれませんね。しかし、ぼくにとってはバレエもお芝居も“表現”という意味では同じなんです。踊って伝えるのか、台詞で伝えるのかの違いだけで」
首藤がバレエに出合ったのは、大分の小学生だった8才のとき。地元の文化会館で上演された『屋根の上のバイオリン弾き』を見に行ったという。
「初めて、劇場という空間に足を踏み入れたんですが、なんというかものすごく特別な体験でした。緊張感と心地よさが同居している感じがして、その空気に魅せられてしまった」
劇場に恋をした首藤少年は、登下校を文化会館の前を通るルートにし、公演の告知があれば見に行った。
「あるとき、地元のバレエ学校の発表会を見に行ったんです。衝撃でしたね。だって、それまでは東京からやってきた人たちだけが立てると思っていた舞台で、地元の子供が踊っているわけですから。バレエをやればあそこに立てるんだ!とそのバレエ学校に入れてもらったんです」
そして1年後、初舞台を踏む。
「すごく嬉しいのと同時に、怖いと思いました。緊張感と恐怖のため体中の血が抜かれたようで、寒くてたまらなかった」
しかし、一歩舞台に出たとき…。
「照明があたって、体が温かくなり、新しい血が体中を駆けめぐるのを感じたんです。音に乗って体を動かすだけで、すべて歓びに変わるんだ…。あの瞬間に、ぼくの人生は決まりましたね」
――もっとうまくなりたい。
そう思った彼は中学1年生でアメリカのバレエ学校が主催するサマースクールに参加する。
「ワクワクしながら行ったのですが、鏡に映った自分の姿に愕然としました。それまで、自分は比較的バレエ向きの体形だと思っていたのに、みんなと並ぶと手足の長さからして全然違うんです。本気でバレエをやるということは、こういう闘いをしなくてはならないんだ……と」
15才で東京バレエ団に入団後は、日本はもちろん、世界の舞台で観客を魅了し続けてきた。そして今、首藤は若手ダンサーたちと共に舞台に立つ。
「若くて勢いがあり、才能溢れる彼らと一緒にやれることは、非常に楽しみ。ぼく自身、得るものがあると思うし、それはこれからの糧になると思います」
これからのために…。だから首藤は、毎日3時間のレッスンを365日欠かさない。
「以前はいつも『今日は未来への初日』だと思っていたけど、最近は『いつ千秋楽になるかわからない』と思うようにはなりました。そういう年齢なのかな(笑い)」
願わくば、首藤康之というたぐいまれなバレエダンサーの千秋楽は、まだまだ先にしてほしい。
撮影/ヤナガワゴーッ!
※女性セブン2017年2月23日号