2月1日に12球団が一斉にキャンプイン。担当記者たちは連日のようにキャンプ情報を集め、野球ファンに送り届けている。
巨人や阪神などの人気チームは複数の記者が張り付くが、それ以外のチームは1チーム1人態勢となるため、どうしても取材で手が回らない。巨人や阪神では監督担当、投手担当や野手担当、人気選手担当と役割を分けているところを1人で取材して回るからだ。そのため、各社の記者の間で“情報共有”が活発になるという。
「見出しになるようなコメントが1社だけ取れていないといった事態は、どの社の記者も避けたい。数社の記者が協力して、監督や中心選手のコメントを交換し合うことで、チーム全体の情報をカバーしていく。その代わり、スクープはない」(パ・リーグ球団の担当記者)
特にキャンプでは取材する相手も場面も限られるため、他社と情報のすり合わせができれば担当が1人でも漏れが出る事態は起きにくい。その結果、どこも同じような記事が紙面に載る。
ちなみに他社から情報を教えてもらった場合、「チャンシ」というフレーズで“お礼”をいう。もともとは相撲記者の間で使われていた隠語。囲み取材で力士の声が小さかったり、ガラガラ声で聞き取りにくかったりした場合に、他社からコメント内容を教えてもらうと、そのお礼に「ごっちゃんした」といっていた。それが短くなって「ちゃんし」となり、野球担当記者にも伝播したとされる。あるベテランデスクはこう嘆く。
「若い連中は『チャンシお願い』とか『どうも、チャンシです』とか恥ずかしげもなくやり取りする。昔は長嶋番として信頼されて名を売ったとか、各社に看板記者がいた。
そりゃ経費節減で人手が足りなくなっていたり、取材される側もベタベタされるのを嫌がる選手が多くなったりしたという事情はあるが、独自の記事がどんどん減っている。現場の番記者連中はつらさばかりを強調するけど、それを額面通りには受け取れないという気持ちも老兵にはある」
かつては大物選手が移籍すれば信頼された番記者が一緒に担当球団を移ることも多かった。今オフは陽岱鋼(30、日本ハム→巨人)、糸井嘉男(35、オリックス→阪神)といった大型FA移籍があったにもかかわらず、それに伴う記者の担当替えは少なかったという。
しばらく紙面を埋めるキャンプ記事も、裏事情を知って読んでいくと違った趣がある。
※週刊ポスト2017年2月17日号