香港在住の中国人富豪が1月下旬、滞在中の高級ホテルから何者かに連れ去られて、香港と中国の境である深センから中国大陸に入っていたことが分かった。富豪の家族が香港警察に捜索届けを提出したことで、失踪が明るみに出た。香港では昨年、中国内で発行禁止の書籍の出版・販売に関わっていた書店店主らが香港内で拘束、大陸に連行される拉致事件が起こっており、今回は2度目。
今回の場合、この富豪が江沢民・元国家主席が中心の「上海閥」の中心人物。大陸の資金を香港でマネーロンダリングするなどの腐敗事件に絡んでいるとの情報もあり、「上海閥」対立する「大使党閥」である習近平国家主席が直接、富豪の拉致を指示したとの見方も出ている。
この富豪は45歳の肖建華氏。1999年に北京で投資会社「明天有限公司(以下、明天)」を創業。ホールディングス・カンパニーである明天は2013年時点で、国内9社の上場企業と30社の金融機関を傘下に収めている。また、昨年の肖氏の個人資産は400億元(約6800億円)で、中国富豪ランキング32位、世界富豪ランキングでは398位にランクインしている。
肖氏は2008年、証券会社をめぐる不正株式上場や他の金融詐欺事件に関わったとの噂が出て、その後、当局の追及を逃れるために、中国本土を離れて香港に住むようになり、高級ホテルに居に定めていた。
ところが、香港メディアによると、肖氏は春節(旧正月)前夜の1月27日(旧暦の大晦日)、ホテル内で何者かに身柄を拘束されたもようだ。家族の捜索願を受理した香港警察は28日から捜査を開始。肖氏が27日夜、香港で出境手続きを行い、深センから本土に入ったことを確認。このため、肖氏は書店店主事件と同じく、中国当局によって拉致されたとみられている。
だが、不思議なことに、肖氏は30日と31日、「明天」の交流サイト(SNS)微信公式アカウントで、「現在海外で療養中だ」「身柄を拘束されて中国国内に連行されたことは全くない」と2回も声明を発表しており、中国当局の関与を全面否定した。さらに、2月1日付の香港紙「明報」が肖氏の名前で、1面の全面広告で、再び拉致を否定する声明を掲載しているが、香港では「いずれも中国当局が肖氏に命じて出した声明に違いない」との見方が出ている。
では、なぜ、このような手の込んだ偽装工作を講じなければならないのか。
香港の中立系誌「動向」は「肖氏は上海閥の金庫番的役割を果たしており、大陸の不正な資金を香港市場を通して洗浄している。その額は2兆元(約34兆円)にも上っている。その資金の流れの解明しようとした習近平指導部によって、肖氏は拉致されているのではないか」と指摘している。