都内ではまだダウンジャケットが手放せない2月上旬、熱海の市街地を流れる糸川沿いの遊歩道では、桜が咲き誇っていた。
咲いているのは「あたみ桜」。下田の御用邸、伊勢神宮、東宮御所に献上されたことでも知られる早咲きの桜で、1月からつぼみをほころばせるため、「日本でいちばん早い桜」と呼ばれている。
ちょうどこの時期は、梅も同時に開花するため、一足早く、賑やかな春を楽しもうという人たちが関東近郊だけではなく全国から訪れている。
花を目当てに東京からやって来たという60代の夫婦は、薄紅色の花を見上げて「本当に素敵ですね」と声を弾ませる。熱海に来たのは30年ぶり。四半世紀以上、足が遠のいていた熱海を再訪したのは、ある噂を聞きつけたからだ。
「最近、熱海がよくなったと聞いたので、それで来てみたんです。そうしたら、桜の周りだけではなく食事をするところがどこも混んでいて、こんなに賑わっているのかと本当にびっくりしました」
若い世代も、熱海を新鮮に楽しんでいる。互いに写真を撮り合っている若い女性3人組は、名古屋から来たという女子大生だった。
「名古屋からだと、新幹線で2時間くらいなので、プチ旅行にちょうどいいんです。だから去年もみんなで同じ時期に来たんですよ。でも、そのときよりずっと観光客が増えていますね」と興奮ぎみに教えてくれた。
今、熱海を訪れる観光客が増えている。2015年度、熱海市内の温泉のある旅館やホテルに滞在した宿泊客は300万人の大台に乗った。これは実に13年ぶりの大記録だ。さらに、2016年には楽天トラベルが発表した「人気温泉地ランキング」で、2年連続の1位に輝いている。
花見客や熱海駅前や駅前商店街の人だかりを見ても、若者から家族連れ、お年寄りまで幅広い世代から熱海が支持されているのがわかる。なぜ今、熱海の人気は再燃しているのか――。
今、熱海が再び活性化してきている背景には、豊富な観光資源が見直されてきたという事実がある。熱海市役所観光経済課・山田久貴さんもこう胸を張る。
「都心から新幹線で40分ほどという近さ、海・山そして初島のような自然がある。温泉もあり、おいしい食もあり、そして、『起雲閣』のような歴史的な遺産もある。この5つを兼ね備えた観光地は、全国探しても熱海以外にないと思います。それをどうやって多くの人に伝えるか、が問題でした」