3月12日に初日を迎える大相撲春場所の前売り券が、2月5日の発売開始当日にわずか2時間半で完売するというかつてない売れ行きを見せている。
19年ぶりの日本出身新横綱の誕生による盛り上がりは留まるところを知らず、ネットのオークションサイトでは、前売り券が定価の3~5倍で取引されているほどだ。
かつての“若貴フィーバー”の再来を思わせる活況のなか、5日に両国国技館で開かれた日本大相撲トーナメントには1万人を超えるファンが訪れた。
新横綱・稀勢の里がトーナメント初優勝を飾って観衆の期待に応えたが、関係者の間で話題となったのは、その取組内容である。
「2月は巡業がないため、大相撲トーナメントや福祉大相撲などの、いわゆる花相撲(勝敗が番付や給金に反映されない興行)が行なわれます。こうしたイベントでは、力士たちが怪我を避けるために自然と『押し出し』や『寄り切り』の決まり手が多くなる。白熱した取組内容になりにくいのですが、今回は全く違っていました」(担当記者)
特に注目を集めたのが、決勝で稀勢の里と貴乃花部屋のモンゴル人力士・貴ノ岩がぶつかった一番だ。
「立ち合いで頭から激しくぶつかっていった貴ノ岩が右を深く差して押し込みましたが、稀勢の里が首投げからの突き落としで勝負を決めました。本場所さながらのガチンコ相撲に場内は大いに沸いた」(同前)
誰にでも全力でぶつかっていくガチンコ新横綱・稀勢の里の真骨頂を見せた一番だった。協会関係者はこんな言い方をする。
「印象深いのは、その決勝の相手が現役時代にやはりガチンコ横綱として勝負し続けた貴乃花親方の愛弟子だったことです。大相撲トーナメントは巡業部の仕切りで、貴乃花親方が最高責任者の巡業部長を務めている。優勝杯を授与する際に貴乃花親方は、愛弟子との真剣勝負で土俵を盛り上げた稀勢の里に“よかったな”と労いの言葉を掛けていた。相撲界が大きく変わろうとしていることを象徴する印象的な場面でした」
※週刊ポスト2017年2月24日号