時代劇で落語家が演じる悪役ぶりが話題を集めている。NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』では、今川義元を演じる春風亭昇太が“怪演”と話題沸騰中。春風亭小朝もBS時代劇で演じる不気味な悪役で存在感を発揮している。彼らの“怖さ”の秘密について時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが迫る。
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怖っ!! 大河ドラマ『おんな城主 直虎』で春風亭昇太演じる今川義元が出てくるたびに、そう思う人は多いはず。なにしろ、第一話で初登場の際には、ピロピロリ~と不協和音っぽい音楽に乗って、白いマントのような豪華な羽織をぶわっとさせて登場。その顔は、額には黒丸のような眉毛が描かれ、唇まで真っ白! 怖しい白カラスのような雰囲気だ。
その義元は、目の前の裏切り者・井伊直満(宇梶剛士)を嫌な顔でにらみつけ、無言のままさっと手を挙げると、あっという間に家来たちが宇梶を抹殺してしまう。いつもの昇太なら、宇梶と目が合っただけでボコボコにされそうだが、今回は違う。しかも、人殺しを命じておきながら、白カラス義元は終始無言なのだ。
その後、ドラマの主人公井伊家の娘おとわ(後の次郎法師・直虎)を人質から解放する際にも、まったく声を出さず、扇をパサッとしただけで命令完了。家臣はそれだけで、おとわに「去ってよいとの仰せじゃ」と義元の言葉を理解するのである。テレパシーか。
しかし、これは絶妙な演出だ。視聴者はふだん『笑点』でお茶目でおしゃべりな昇太を観ているだけに、口を開かず、白塗りの義元とのギャップは強烈で怖い。威圧感もある。おまけに『笑点』では嫁がいないことをいつもネタにされているが、この義元は、かつて人質にされた井伊家の美女佐名(花總まり)を「お手付き」にしているのである。おとわの侍女の話では「それはもう何度も何度も」で、その挙句、飽きるとぼろのように「捨てた」という。これもギャップ…。
今川義元は、これまで大河ドラマでは、『功名が辻』江守徹、『武田信玄』中村勘九郎(中村勘三郎)、フジテレビの『女信長』では三谷幸喜、最近では『信長協奏曲』で生瀬勝久など、名優が演じてきたが、この昇太ほど不気味な義元はいない。『下町ロケット』で主人公の町工場を痛めつける非情な銀行融資係から、昇太の敵役はさらに進化した。