天皇陛下の生前退位をめぐる混乱はどこから生じたのか。陛下自らが「ご意向」を昨年8月に発表しつつも、「有識者会議」と意見がずれた。ジャーナリスト・東谷暁氏は、安倍政権にこそ責任があると指摘する。
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ここで述べようとしているのは、今上天皇の「ご意向」にもかかわらず、それを実現しようとしない有識者会議への抗議ではない。そもそも、今上天皇の「ご意向」から始まった今回の譲位問題が、いまのような混乱に陥ったのは誰の責任なのかを再考し、その上で有識者会議を見直してみたいと思う。
そもそも、今上天皇が「ご意向」を表明することが報道された事件は、いったい何と呼ぶべきだろうか。私はこれまで聞かれるたびに「これは宮内庁の一部とNHKの皇室担当者によるクーデターだ」と答えてきた。もちろん、この答を聞いて驚く人は多い。NHKテレビによる「ご意向」のスクープが報じられた直後に、ある雑誌に渡した拙文は「クーデター」という言葉ゆえに、結局、発表することができなかった。
しかし、天皇制度をめぐる憲法および皇室典範という法制度を、「ご意向」という法制度には存在しない力によって変更する行為は、「法制度外の威力によって政体の転覆・変更を企てる」ことになる。政治学および法学からいって十分に「クーデター」に相当する。
同じく「クーデター」という言葉を用いて、天皇ご自身のクーデターであると論じる人もいるが、それは適当ではない。今上陛下の「ご意向」が、憲法改正を望んでおられたのかどうかは不明だが、法制上は問題にならない。