──松尾さんはテレビやラジオに出演したり、4年前から東京・西麻布でダイニングバーを経営したりと多方面で活躍され、スポーツ界のみならず様々な業界の人たちと幅広い交友関係を築いています。それもラグビー改革や普及活動につながっているのですね。
松尾:そればっかりじゃないよ。これは僕と同じくラグビーをやっていた親父の教えでもあるんだけど、一度チームから離れたり、監督を辞めたりしたら、二度と大きな顔をするなと。
今までの僕のラグビー人生は、親父に言われて子供のころからレールに乗せられてラグビー漬けの毎日を過ごしてきただけ。現役を辞めた後も親父の会社に入って社長までやってね。
その後は、芸能活動をやりながら、ビートたけしさんなどに助けてもらって今がある。でも、いったい自分はラグビーがなくなったら本当は何をしたいんだろう──と真剣に考えていたんだよね。ちょうど8年務めた成城大学のラグビー部監督を辞めたのが59歳だったから、60歳を機に違った生き方もしてみたいと思ったんだ。
そんな時、中学時代からの旧友が「雄治、お前店でもやってみたらどうだ? みんなで応援するし、いつでもみんなで会える」とアドバイスしてくれてね。確かにこれまでのラグビー生活や芸能生活で、恩返ししたい人はたくさんいたし、長らく会いたくても会えなかった友達もいる。東京で飲食店を開けば、そうした仲間たちと交流できるしね。
──店は基本的に松尾さんの知人か、その紹介でなければ入れない会員制とのこと。スポーツ界だけではなく、いろいろな業界の有名人も多く訪れるのではないですか?
松尾:そんなこともないけど、これまでいろんな人が「松尾の店で飲もう」とこの店を選んでくれてね。もちろん平尾も毎年来てくれたし、元オリンピック選手やサッカー選手、プロ野球選手もこれまでたくさん来てくれたよ。
──お酒の強い芸能人もいらっしゃると思いますが、松尾さんも付き合うのですか?
松尾:僕は新日鉄をやめる30歳までお酒はほとんど飲めなかったんだよ。特に試合の前なんかにお酒を飲んだら大変。興奮して眠れない。
芸能活動をするようになってからは、大橋巨泉さんや松方弘樹さんといった酒豪の人たちと飲む機会も多くて、ずいぶん鍛えられたよね(笑い)。そうはいっても、今でも店ではハイボールを5、6杯飲む程度だけどね。
──たばこは吸いますか?
松尾:僕は吸わないけど、店も特別禁煙にはしてない。一緒に来たグループの皆がたばこを吸えば、自由に吸って構わない。でも、何人もたばこを吸わない人がいたら、気を使って隅のほうで吸ったり、外に出て吸ったりするのは当たり前のマナーだと思うから、いちいち規制もしてないよ。
たばこだけの問題じゃなく、僕が注意しなければならないほどマナーの悪いお客さんには来てほしくないし、店とお客さんは対等な関係であるべきで、一緒に店を良くしたいっていう気持ちが強い。
──W杯開催に伴う経済効果は2330億円なんていう予測も出ています。松尾さんのお店もますます賑わいそうですね。
松尾:ウチは儲けは度外視なの。だってワインにシャンパン、ウイスキーなんかが飲み放題だけじゃなく、カレーライスみたいな食べ物もついて5500円なんだから。
昔、高倉健さんが主演した映画『現代任侠史』の中で、寿司屋でお代を払えなくなった客に、高倉健さんが「はい、お一人様1000円で4000円いただきます」というシーンがあって、ものすごく心に残っているんだよ。だから、自分の店もお金のない人からはお金を取らないシステムにしようと(笑い)。