仕方のないことではあるが、がん闘病記は暗く過酷なものばかり。もっと明るく、あっけらかんと語ったっていいではないか。2007年に胃がんと診断されたプロレスラーの藤原喜明氏の証言を聞くと、「がんになっても、楽しい人生」が見えてきた。
67歳を迎えた今もプロレスラーとしてリングに上がり、必殺技のフジワラ・アームバー(脇固め)で若手レスラーからタップ(ギブアップ)を奪う。衰え知らずの肉体を持つ藤原氏からは、がんも3カウントを奪えなかった。
「2007年に胃の検査を受けて医者から“残念な結果が出ました”って言われた時は、“俺、死ぬんだな”って思ったよ。ショックで座り込んじまったよ、5分ぐらい。でも、誰でも一度は死ぬわけだし、それが明日か30年後かの違いなだけだって気づいたんだ。それで一気に気が楽になった。
死ぬと決まったら、自宅のアダルトビデオの処理はどうしようか? とか冷静になれたね。その夜は、とりあえず彼女とセックスしようと出かけたよ」
腫瘍は4cmでリンパ節への転移もあった。ステージはIIIA(ステージIIIの前期)で、5年生存率は41.7%。胃の半分と胆のうを摘出したうえで、胃液が逆流しないように小腸を10cmほど切って食道と胃袋の間に足す処置を受けた。
「再発リスクを考えると全摘出すべきだったんだろうけど、そうすると痩せてプロレスができる体には戻れない。担当医が“絶対にリングにカムバックさせる”と考えて、半分残す判断をしてくれたんだ。
術後はものすげー痛かったぞ! でもな、プロレスラーが痛いなんて言ったらカッコ悪い。だから看護師に“痛くないですか?”って聞かれても“大丈夫”って答えてたんだ。後で、『モルヒネ』っていう痛み止めがあるって知って、“そんな良い薬があるんなら早く言ってくれよ”って思ったよ。俺は知らなかっただけなんだから(笑い)。
入院中に病室を抜け出して、ラーメンと餃子を食いに行ったこともあったな。全部吐いちまったけどな。医者の言うことを無視してトレーニングしたら、高熱が出たこともあったな」