鉄道車両といえば金属でできているものがほとんどだ。ところが最近では、車両だけでなく駅舎など、鉄道にまつわる様々なものに木材を使用する「木質化(もくしつか)」が徐々にすすめられている。一度は廃れた木材の鉄道利用が、なぜ今、ふたたび試みられているのか。木質化の裏側を、ライターの小川裕夫氏がリポートする。
* * *
昨年12月11日、三重県伊賀市を走る伊賀鉄道の上野市駅で木育トレインの出発式が挙行された。木育トレインとは、内装に木をふんだんに使用した列車だ。
伊賀市は名前からもわかるように忍者の里として全国的に有名のため、伊賀鉄道でも”忍者トレイン”などを運行して観光客の誘致につなげようとしていた。
今回、新たに運行を開始した木育トレインも観光客を呼び寄せるための施策といえるが、それ以上に地元の林業を活性化させる目的が強く含まれている。鉄道車両に木材を使うことで、木を消費。木が消費されることで、山林の新陳代謝がよくなる。それが、林業を活性化する。
戦前期、日本各地では林業が盛んだった。しかし、戦災で山林が荒廃したため、戦災復興では外国から建材を大量に輸入し住宅を再建した。同時に日本の山林を甦らせようと、高度経済成長期の昭和30年代にはスギの木が盛んに植林された。それから50年、ようやくかつて植えたスギの木が建材として使えるまで生長した。
しかし、その間に日本の産業構造は大きく変化した。安価な外国産材が大量に輸入されるようになり、国内産材の売り上げは低迷。儲からない林業は斜陽化し、林業従事者も激減した。そのため、スギの木は伐採されないまま放置されている。
山林は定期的に伐採されないと荒れてしまう。山林が荒廃すれば、豪雨時に土砂崩れを引き起こす原因にもなる。さらに今般、私たちを悩ますスギ花粉の大量飛散も山林の管理が行き届いていないことに起因している。
政府や地方自治体は山林を保全していくために、森林整備に本腰を入れ始めた。しかし、林業が盛んだった時代と違い、今は国産材の使い道がない。そうした背景から、政府や地方自治体は木材利用を奨励している。その施策によって木造建築を増やそうとする動きが活発になり、建築物に、できるだけ木造を取り入れる”木質化”もすすんでいる。昨今話題になった新国立競技場も木材を取り入れるデザイン案が採用された。そうした木質化の潮流は、鉄道にも押し寄せている。