普段、何気なく使用している耳かき。だが、一度使用すると他人にすすめたくなる耳かきがある。その名は「匠の耳かき」(2万7000円)。作っているのは、日本で数少ない耳かき専門の職人のひとり、加藤惠一さんだ。
「子供の頃から身近にある木や竹などを使い、遊び道具を作るのが好きだったんです。30代前半の頃に働いていた職場で、お土産でもらったようかんの竹の容器を使い、耳かきを作ってみたところ、市販のものより使いやすくて…」
加藤さんはそう振り返る。こうして趣味で作り始めた耳かきを、周りの人にプレゼントすると、みな喜んでくれた。そこで2001年、東急ハンズ主催の『ハンズ大賞』へ応募したのをきっかけに、加藤さんは50才で早期退職。「耳かき職人」として歩み始めた。
弟子入り経験はなく、すべて独学。試行錯誤を重ねた末に、【1】さじが薄くてよく取れる【2】丁寧な仕上げで痛くない【3】竹のしなりで、やさしく、気持ちいい、という3つの特徴を持つ耳かきを作り上げた。
しかし、作り手の満足が、使い手の満足に必ずしもつながる道具ではないことに気づく。
「耳かきの好みは、まろやかなかき心地がいい人、痛いくらいひっかかりを感じるのがいい人など人それぞれ。嗜好性の高い道具でもあることから、さじの大きさは約2~4mm、幅約1~4mm、しなりの硬さは硬め~柔らかめなど、さまざまに組み合わせられるようにしました。お客様の理想の“かき心地”を実現するため、納めた耳かきを、後日さらに調整し直すこともあるんですよ」(加藤さん)
デパートなどでの実演販売では、その場で微調整してもらった客が、そのかき心地に感動することもたびたびだ。今や、2万人を超える愛用者にはリピーターも多く、現在、予約は4か月待ちという人気ぶり。愛知県碧南市のふるさと納税返礼品にもなっている。
使用しているのは、煤竹。これは、色艶としなりに優れており、古民家の囲炉裏の煙で100年以上いぶされた茶褐色をしている。
「先端のさじ部分を小刀で薄く削り、数時間~ひと晩水に浸し、独自の道具を使って火にあてて曲げ、削る、磨きをかけるなど、丹念に仕上げます。すべてが手作業なので、シンプルな普通型でも、1日に数本しか作れません」(加藤さん)
耳かきを飾っておける専用スタンド付き(約縦4×横10×高さ14.5cm)。他に、箱形の鞘に耳かきが収納できるタイプなどもある。
さじ部分は先端に向けて細く薄くなっていく。厚みはわずか0.3~0.5mm。この薄さが耳あかをしっかりとらえる。
※女性セブン2017年3月2日号