暴力団に密着した『ヤクザと憲法』、訓練生に過酷な暴行を行ったとして事件になった戸塚ヨットスクールの戸塚宏校長を追った『平成ジレンマ』…名古屋のローカル局・東海テレビは、タブーともいえるテーマに切り込み、骨太のドキュメンタリー映画を作り続けている。
テレビで1度放送したものをスクリーンで公開する。最新作『人生フルーツ』を含めると、計10作。それらをすべてプロデューサーとして手掛けてきたのが、阿武野勝彦さんだ。DVD化やネット配信して販売するビジネスモデルが主流の中、映画化にこだわり続ける。
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子供の頃からテレビが好きで好きでしょうがなかったんです。1台しかないテレビを家族全員で囲んで見てました。お兄ちゃんが笑ったり、泣いたり。ラブシーンがあると、お父さんとお母さんは気まずそうな顔をして、変な動きをし出す。
テレビを見ながら他者を感じる。「あっ、お母さんはこんなふうに思うんだ」とか「こんなことを言うんだ、お兄ちゃんは」というような、その時、何かを共有している実感がすごく自分の中に残ってるんです。
今はテレビがそういうものではなくなっています。だから、テレビ、そしてドキュメンタリーの力を取り戻したい。
映画公開は、テレビに戻ってきてもらうためにしています。映画館は、大きなスクリーンで、不特定多数の他者を感じられる空間です。
実際に『人生フルーツ』のある回の上映終了後、誰ともなく拍手がわいたそうです。会場が知らない者同士だったのに何か1つの家族みたいな感じになったと言っているかたがいたんです。「ああ、これだ」って思いました。こういうことを経験した人たちが、やがてテレビに戻ってきてくれると信じているんです。
──でも、「DVD化します」、「Netflixで見られます」とした途端に、映画にする必然性はなくなってしまう。東海テレビのドキュメンタリーは、報道局の記者・ディレクター40人の中から、阿武野さんが指名して、専属で製作にあたる。