「別れの激しい苦痛によってのみ、愛の深みを見ることができる」とは、19世紀イギリスの女性作家ジョージ・エリオットの言葉。春は出会いと別れの季節――別れは単なる悲しみではなく、愛を知り、強くなるための試練なのかもしれません。別離によってはじめて見えた、家族の愛の物語を、32才会社員女性が語ってくれました。
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「お母さんが、出て行った」
小学5年生の時、学校から帰宅すると珍しく父がおり、突然そう告げられました。理由を聞いても、父は言葉を濁して答えてくれません。私はショックのあまり、部屋に引きこもるように。
父はそんな私に無理に学校へ行けとは言わず、ただ食事だけは3食分、用意してくれました。母に比べて盛りつけも雑で味もいまいち。それまで料理などしたことがないのだから当たり前なのに、私は媚びるような父の態度にイライラし、わざと料理を食べず捨てていました。そんなことが続いたある日、父に「食事くらいとれ」と言われ、私は思わず、
「まずくて食べられない。お父さんのせいでお母さんが出て行ったんでしょ。私はお母さんについて行きたかったのに!」
と怒鳴ってしまいました。父は黙って聞いていましたが、その時の顔は、今でも忘れられません。当時の私は、父親が小学生の娘の言葉で傷つくなんて、想像もしていなかったのです。
その後しばらくして、母が出て行ったのは、母の浮気が原因だとわかりました。父にすぐ謝ればよかったのですが、時間が経つほど、言い出しにくくなってしまいました。
父との関係を修復できないまま、大学入学が決まり、家を出る日がやってきました。私はどうしても謝れず、「ひどい娘でごめんなさい。お父さんと暮らせて幸せでした」と手紙を残しました。
駅のホームに見送りに来た父はお弁当を渡してくれました。中身は、ハンバーグや鶏のから揚げなど、私が小学生の時に好きだったものばかり。あまり話していなかったので、父の中の私は小学生のままだったのです。そして「いつでも帰ってこい」と書かれた紙が挟んでありました。父はとっくに、私を許してくれていたのです。丁寧に作られたお弁当は、少ししょっぱく感じました。
※女性セブン2017年3月9日号