鉄瓶というと、古民家の囲炉裏に吊り下げられたイメージだが、フランスをはじめとする欧州では、今、少し小ぶりの鉄製の急須が人気だという。それも昔ながらの黒光りする重厚なものではなく、赤やピンクなど色鮮やかなカラーポットだ。
『南部鉄器カラーポット ナンブガタ』の販売元「アンシャンテ・ジャポン」(東京都文京区)の代表・古川梨花さんは、そんな「南部鉄器カラーポット」の誕生のきっかけを、こう話す。
「フランス滞在中に訪れたカフェで、店主が“これはきみの国のものだろう”と言いながら、南部鉄器のティーポットで紅茶を出してくれたんです。それまであまりなじみのなかった南部鉄器に、異国の地でしかも紅茶との組合せで出合うとは思いませんでした」
南部鉄器の温かみのある鋳肌は、使い込むと表情が変化し、日本独特の「わび・さび」に通じる情緒がある。日本文化に対する造詣が深く、お茶好きなフランス人の間では、15年以上前から人々の関心を集めてはいたが、伝統的な型をベースにしたカラーポットは輸出用に作られており、色は黒と茶が中心のシックなものばかりだった。
「製造元を探し出し、日本でも販売したいと直談判しOKをもらうと、自分がほしい形や色をリクエストして、試作を重ねました」(古川さん)
鉄瓶は、ただ小さくするだけでは急須としても使いづらい。そこで、ポットの内側と蓋の裏に錆止めのホーロー加工を施して、使いやすさを追求。こうして、鉄瓶のように直火で沸かすことはできないが、丈夫で、保温性に優れたカラーポットが完成。2004年から販売を開始した。シリーズによって色は異なるが、日本では白とピンク、欧州では紫や紺色が人気だ。
30工程以上の伝統技法を用いて作られる鉄の急須は、熟練職人が細かな砂を用いて鋳鉄し、なめらかでキメの整った美しい肌合いを丁寧に実現している。
「美しい発色のために、下地と上色の2層で着色しています。凸凹模様は、デザインに合わせて上色をかけたあと、部分的に拭き取り下地の色を引き出して、浮き上がらせています」(古川さん)。
2008年に登場した鮮やかなピンク色は大きな話題となり、2011年の外務省制作の「クールジャパン」のポスターに採用されている。
フランスでは、食事に合わせてワインを選ぶように、お茶に合わせて茶器を選ぶというが、和モダンな鉄の急須で、どんなお茶を飲みますか?
※女性セブン2017年3月9日号