【書評】『政府の隠れ資産』/D・デッター、S・フォルスター・著 小坂恵理・訳/東洋経済新報社 2800円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
決して読みやすい本ではない。事実を淡々と記しているので、退屈と言えないこともない。にもかかわらず、この本を紹介することにしたのは、書かれている内容が日本にとって、とても示唆に富んでいるからだ。
政府が保有する資産は、どの国でも大きい。その資産を政府が保有し続けるべきか、売却すべきかは、常に論争の的になってきた。しかし、著者は、それはどうでもよいことで、政府保有資産のガバナンスを強化して収益力を高めることこそが必要と主張する。
公営企業の効率は一般によくない。それは、政治家や官僚が経営に余計な口を出すからだ。40年近く前、私が日本専売公社に勤めていたとき、「そんな無駄な投資をしたら、会社の経営が傾きます」という私の言葉に、大蔵省の主査がこう言った。「大丈夫だよ。苦しくなったら、値上げさせてやるからさ」。その後、専売公社は民営化され、株式が公開されて、収益力は劇的に改善した。
しかし、著者は、他にも方法があると主張する。それは、政府の保有資産をナショナル・ウエルス・ファンドに統合し、その資産を活用したビジネスを政府とは独立した専門家に任せるという方法だ。政府版のプライベート・エクイティ・ファンドのようなものを作るのだ。
例えば、シンガポールの事例は強烈だ。テマセクというナショナル・ウエルス・ファンドは、1974年の設立以降、平均で18%もの利益を生み出し続けてきた。つまり、国が保有資産を使って本気でビジネスをすれば、大儲けできる可能性があるということなのだ。
日本は、世界のなかでも、とりわけ政府保有資産が大きな国で、独立行政法人などを含めた広義の政府が保有する資産は930兆円にも上っている。仮にこの資産をシンガポール並みの利回りで運用し、その半分を国民に還元したとすると、年間の還元額は、84兆円ということになる。これは現在の税収を上回るから、日本は無税国家になれるのだ。この本を財務官僚に是非読んでもらいたい。
※週刊ポスト2017年3月10日号