東京都民の間では、豊洲新市場の「(環境基準の)79倍のベンゼン」検出以降、市場移転計画を疑問視する声が強まっている。朝日新聞の2月世論調査でも、豊洲移転を「やめるべきだ」(43%)が「目指すべきだ」(29%)を初めて大きく上回り、世論は「豊洲NO」を突きつけた。
そこに小池氏が豊洲移転の代替案として「築地建て替え」の現実的な計画を打ち出すことができれば、7月の都議選を前に新たな小池旋風を巻き起こすことができるだろう。
ただし、いざ建て替えとなると別のハードルに直面することになる。東京都は1980年代に400億円をかけて築地の再整備を進めたにもかかわらず、途中で断念した経緯がある。当時を知る都庁OBの話。
「断念したのは築地を営業しながら建て替えるのが難しかったからです。
現地に行ったことがある人はわかるでしょうが、築地には敷地いっぱいに建物が建っていて、仲卸などの店舗が密集している。再整備には、店舗をいくつかのブロックに分けて、順番に休業しながら部分的に工事を進めなければならない。
『Aブロック店舗は営業補償をするから工事の間2年間休業してください』というと、卸業者はその間に客を奪われることを心配してどこから工事を進めるかの調整がつかなかった。それは今も変わっていません」
7年前にも、都議会で多数派を占めた民主党が築地の建て替え案を公募し、「築地再整備を訴える構造設計集団」(SDG)という建築家グループが提案した現在の市場の上に人工地盤をつくって高層化する建て替え案などが検討された。
この案は再び注目されているが、事業費が4000億円かかるうえに、やはり意見集約ができずにお蔵入りとなったものだ。
小池氏は2月の千代田区長選で大勝して都議会自民党の分裂を促し、都議会に百条委員会を設置させて石原元都知事の責任追及の舞台をつくるなど向かうところ敵なしだが、市場移転を断念するとなれば、仲卸業者たちの利害調整が複雑にからむ築地建て替えには、得意の「政敵とのケンカ」とは違う政治家としての調整能力が必要だ。
この先にこそ、都知事・小池百合子の真価が問われる局面がやってくる。
※週刊ポスト2017年3月10日号