集英社の社員カメラマンとして勤務しながら、自らの作品を世に出してきた中村昇氏。サラリーマンとしての苦悩、葛藤を乗り越え自ら手繰り寄せたカメラマンとしての地位。定年退職し、やりたいことをやれている今が一番楽しいと語る。
2008年、集英社を定年退職した中村氏はフリーカメラマンとして活動。「国民の愛人」として人気爆発中の橋本マナミのブレイクにも一役買った。橋本は中学1年の時、「全日本国民的美少女コンテスト」出場をきっかけに芸能界入りしたものの、なかなか芽が出なかった。デビューから15年経ち心機一転、事務所を移籍した際に、中村氏が初めてグラビア撮影を行なった。
「レンズの中にのめり込んでくるような感覚がありました。覚悟を決めていたのか、“そこまでやらなくていいから”と注意するくらい積極的なポーズを取ってくれましたね」
これをきっかけに頭角を現わし、2年後には橋本自身10年ぶりとなる写真集『あいのしずく』を中村氏が撮ることになる。
「撮影前、彼女に“ありきたりのモノを作っても意味がない”と伝えました。彼女もこの1冊に懸けていたようで、できあがった写真を一緒に見ていたら、乳首が透けているカットを指差して、“これを表紙にしませんか”と自ら提案してきたんです。周りのスタッフもビックリしていましたよ。彼女はいくら淫らなポーズで撮っても清潔感があるので、見る者を飽きさせない魅力があります」
被写体が誰であれ、現場でおだてたりゴマをすったりは一切しない。撮影は、常に戦いである。と同時に、相手を信用することが最も大事だと力説する。
「仕事ですから好みでない方も撮ります。でも、不機嫌な気分で撮ると、必ずそれが写真に出る。だから、被写体のことをよく勉強して、愛して、魂を込めてシャッターを切ります。良い1枚は、お互いがお互いを信用することから始まるんです」
カメラマン生活45年。「こういう記事はまだ早いよ。もっともっと撮るんだから」と中村氏は苦笑した。
※週刊ポスト2017年3月10日号