「韓国の慰安婦問題も沖縄の辺野古移設問題も根っこでは同じです。日韓合意の10億円と基地交付金と、どちらもカネで頬をひっぱたくようなものだと言うと、彼らも『全く同じ意見だ』と応じていました」
沖縄本島中部の読谷村の工房で、そう話すのは、沖縄で“反戦彫刻家”として知られる金城実氏(78)だ。
名護市辺野古で進む米軍普天間飛行場の代替施設建設に反対し、抗議集会に特大の彫像を持ち込んだこともある。
工房を「彼ら」が訪ねてきたのは、1月25日のこと。30名ほどの訪問団の中心は50代の夫婦、キム・ウンソン氏(52)とキム・ソギョン氏(51)だ。
ソウルの日本大使館前や釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦像をはじめ、夫婦の手による像は、韓国全土に広がっている。いまや慰安婦問題の伝道者と言わんばかりだ。
この夫婦が1月24日から27日にかけて沖縄を訪れていた。夫婦の訪問の目的は何か。調べるなかで行き当たったのが金城氏だ。
「『作品を見せてほしい』と言われたので、工房や自宅隣の作品を見せて、夫婦と話をしました。あまり自分たちからは積極的に質問をしてくることはありませんでしたが、沖縄戦での犠牲や今も続く米軍基地による被害に関心が強いようで、意見交換をしました」
実は、金城氏が夫婦と会ったのは、この時が初めてではない。昨年4月に「戦争被害と芸術」をテーマにしたシンポジウムが韓国で開かれ、同氏や夫妻ら日韓独の芸術家が招かれた。金城氏は夫妻と意気投合し、「一緒に日本大使館前での水曜集会(*)にも出ました。だから今回会ったときは『やあ、久しぶり』という感じで親しみを覚えた」と語る。
【*在ソウル日本大使館前で行われる慰安婦問題集会。毎週水曜日に開催される】
自宅の近くにある、沖縄戦で集団自決が行われたとされるチビチリガマ(ガマとは沖縄で洞窟のこと)にも案内したところ、夫婦は、慰安婦像の手のひらサイズのミニチュアなどを土産として置いて帰ったという。
■取材・文/織田重明(ジャーナリスト)
※SAPIO2017年4月号