欧州で選挙などの大型イベントが続く中、金市場はどのような展望となるのか。マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役の亀井幸一郎氏が解説する。
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金市場の動向を考える上で、2017年のキーワードになるのが「連鎖する不確実性」だ。今年の金価格に影響を与える不確実性要因として、米国のトランプ政権の行方、欧州で相次ぐ国政選挙などの政治的要因が最も大きく、年間を通して材料になるだろう。
一方、金融・経済面では、米連邦準備制度理事会(FRB)が2016年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを決定し、2017年中に3回の利上げシナリオを示している。基本的に金市場では、米長期金利の上昇と米ドル高は金価格の頭を押さえる要因として常に意識される。このため、足元の金相場は、冒頭で述べた不確実性要因と、米国経済の成長加速期待に伴う利上げ観測との綱引きが拮抗する展開になると考えられる。
不確実性が新たな不確実性を生む連鎖は、トランプ大統領誕生に端を発するといってもよい。彼が掲げる自国第一主義の流れが欧州に向かう可能性が高まっており、3月のオランダ総選挙、4~5月に予定されるフランス大統領選挙、秋に実施されるドイツの連邦議会(下院)選挙の行方は、金市場を読む上でも目が離せない。金市場では政治的要因、そこから派生する地政学的リスクなどが価格押し上げの材料になるからだ。
これら欧州の国政選挙の中で、政権交代が起こりそうな可能性を否定できないのがフランス大統領選である。同大統領選は4月23日の第1回投票で首位の候補者の得票が過半数に届かない見込みのため、5月7日に2回目の投票(決選投票)が行なわれる予定だ。
現時点では、反EU(欧州連合)・反グローバル化を唱える極右政党・国民戦線のルペン党首が支持率でトップを走っている。ただし、これまでは、決選投票に残ったとしても他の候補者の支持層が統一されるために、当選は難しいとみられた。したがって、決選投票では当初は、中道右派の有力候補・フィヨン元首相(サルコジ政権時代の首相)が勝利するものの、ルペン党首の追い上げによる危機感から金市場にマネーが流れ込むというシナリオが想定された。
ところが、フィヨン元首相に妻の給与不正受給疑惑が浮上し、支持率が急低下。無所属のマクロン候補が浮上し、混戦模様となっている。ルペン党首が勝つシナリオも無視できなくなっている。もし当選すれば、市場には想定外の事態となる。
その意味では、フランス大統領選に先立って行なわれるオランダ総選挙も重要なポイントとなる。政権交代にならないとしても、反EUを掲げる極右政党が議席数を伸ばすなど躍進した場合、その後の欧州各国の選挙に連鎖していく可能性がある。オランダの選挙結果はフランスの選挙に、フランスの結果はドイツの選挙に影響する。
仮にフランス大統領選でルペン候補勝利となれば、2016年の英国のEU離脱(ブレグジット)決定時のように、その段階で金融市場は相当荒れ、金価格は急騰となろう。昨年6月下旬のブレグジット決定直後はリスク回避で金市場への資金流入が加速し、翌月の7月6日にはニューヨーク商品取引所(COMEX)金先物市場で、2016年の高値となる1トロイオンス(約31.1035グラム)=1377.50ドルをつけた。
英国は今年3月末までにEU離脱を通告する予定であり、離脱交渉がいよいよ始まる。交渉自体は難航が予想されるが、一連の動きはフランスやドイツの世論を刺激し、反EU勢力が支持を伸ばしていく可能性もある。