脳疾患に対する手術は、長い間、顕微鏡を使った開頭(骨を外す)手術が行なわれてきたが、脳をかき分けて疾患にアプローチするため、脳だけでなく全身に対する負担が大きかった。一方、脳に対する低侵襲(ていしんしゅう)手術として、カテーテルを利用した血管内治療や内視鏡を用いた神経内視鏡手術も導入されている。
日本神経内視鏡学会会長で、日本医科大学武蔵小杉病院脳神経外科の喜多村孝幸教授に話を聞いた。
「世界最初の脳外科分野における神経内視鏡手術は、1910年に水頭症の子供に対して行なわれました。日本で本格的に研究が始まったのが1990年代で、内視鏡の画像精度の向上や機器の改良が行なわれ、徐々に普及していったのです。現在は水頭症や脳腫瘍、先天奇形などの疾患に対し、顕微鏡手術に匹敵か、それ以上のレベルでの手術が行なわれています」
脳の疾患における神経内視鏡手術は、内視鏡内に手術器具を挿入して行なう内視鏡単独手術、内視鏡で疾患を見ながら内視鏡の外から入れた器具で行なう内視鏡下手術、顕微鏡と内視鏡を併用しながら行なう内視鏡支援手術があり、疾患などに応じて使い分けている。
神経内視鏡手術の導入で、時間の短縮も可能になっている。例えば、脳腫瘍があり、脳脊髄液が滞留し、水頭症を併発している症例では、従来は全身麻酔で水頭症の治療を行なった上で再度、全身麻酔で脳腫瘍の手術を行なわなければならなかった。手術時間も合計8~10時間と長く、患者にとっては負担だった。
それに比べ神経内視鏡手術では、内視鏡で水頭症手術を実施し、続けて内視鏡下で腫瘍摘出を行なうことができるため、全身麻酔は1回で済み、所要時間も合計約3~4時間と大幅に短縮される。