昨年11月の米大統領選以降、最高値更新中のNYダウを筆頭に世界的な株高が起こっているが、それは米トランプ大統領の誕生の影響によるものではない。いま世界的に起こっている経済の大転換が背景にあるという。グローバルリンクアドバイザーズ代表・戸松信博氏が解説する。
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NYダウをはじめ世界的な最高値更新モードに突入している。その要因は一見、「トランプ相場」によるものと思われがちだが、実は現在の世界的な株高の正体はそうではない。
主要各国の経済指標を見ると、米国をはじめ欧州、日本、中国の製造業景況感指数(PMI)はすべて昨年半ばに底を打って上昇基調に転じるなど、好調な経済が株高を裏付けている格好なのだ。
その背景にあるのは、世界的な「金融緩和+財政出動」の流れだ。主要国はこれまで財政再建に向けた緊縮財政を行なってきた。しかし、景気の低迷が長引くなか、積極財政へと軸足を移す国が増えてきている。まずカナダが昨年初めに税制優遇とインフラ投資からなる大規模な財政出動計画を打ち出した。そして昨年6月のブレグジット(英国のEU離脱)決定を起点にその流れが加速。日本や中国、英国、そして米国など主要国の財政拡大が続いている。
主要各国の金融政策を見ると、米国は利上げに転じたものの、世界的に金融緩和は継続。日銀やECB(欧州中央銀行)は強力な量的金融緩和を続けているうえ、昨年はETF(上場投資信託)や社債などのリスク資産購入という質的緩和も強化。中国人民銀行も低金利を続けているうえ、英国中央銀行も量的緩和の再開や社債の購入を決定している。
その結果、各国の経済指標は2016年7月に軒並み底を打ち、続々と好転している。それこそが世界経済にとって大きな転換点だったのだ。いうまでもなく、それはトランプ大統領誕生など誰も予想しなかった時期である。現在の株高が「トランプ相場」を機に始まったものでないことは明らかだろう。
◆債券から株式へのグレートローテーション
何より米国経済の好調は「トランプ以前」から始まっている。2016年に入ってからの各種指標を見ても、雇用統計は雇用者数に目立った増加はないが、平均時給伸び率は大きく伸長。企業と個人などが保有する通貨総量を示すM2(マネーサプライ)も同様の伸びを見せ、不動産(中古住宅)価格はリーマン・ショック前の水準を超えている。米国の5000世帯に景況感などを聞いて算出する「消費者信頼感指数」を見ると、見事にNYダウと連動して上昇トレンドにあり、これも米国株が最高値を更新する裏付けといえる。
一方、日本の経済指標はというと、生活実感は少ないかもしれないが、実は米国同様に好調さが窺える。M2の増加はもちろん、製造業の景況感指数(日経日本製造業PMI)や街角の景況感を示す景気ウォッチャー調査の現状判断DI(景気指数)なども揃って昨年7月に底打ちしているのだ。
このように昨年7月を境に日米のファンダメンタルズが強まっているなか、トランプ政権は今後10年間で6兆ドル規模の大型減税と1兆ドルと目されるインフラ投資拡大を掲げ、これが株高の加速エンジンになったと見る方が妥当だろう。つまり、現在の株高傾向はトランプ政権への期待感だけではなく、より本質的なものである、というのが私の見方だ。
加えていえば、米国のインフレ加速への期待感もある。好景気でインフレが加速すれば債券価格は下落するので、債券から株式に資金がシフトする「グレートローテーション(大転換)」が起こる可能性が高まっている。
仮に毎年2%のインフレが続けば、企業の利益率が変わらなかったとしても、単純計算で10年後には株価が1.2倍になる。つまり、インフレ要因だけでもNYダウが2万4000ドルに上昇することは十分考えられ、そこに企業業績の好調などが加味されてくれば、さらなる上値が望めるに違いない。
とりわけトランプ政権は中間選挙に向けて早く実績を積み上げたいことから、今後2年間は要注目といえる。それによってNYダウが1~2年の間に2万5000ドルまで達し、日本株もその流れに乗るような「世界的なバブル」まで予想されるのだ。