国有地払い下げ問題ばかりか愛国教育も話題となっている「森友学園」の籠池泰典理事長は保守系団体・日本会議大阪の役員だが、この日本会議の影響力は全国の保育園・幼稚園にも広く浸透している。
その象徴が、日本会議の政策委員である教育学者、高橋史朗氏が提唱する「親学(おやがく)」だ。戦前の教育を再評価し、道徳教育を重視して、テレビを見せないなどの復古的子育て法を唱え、その実現のためにまず親を教育すべしとするものである。これを幼児の保護者に実践している。
高橋氏が理事長を務める親学推進協会によれば、現在、親学の基本と基礎的なコミュニケーション・スキルを修得した「親学アドバイザー」は全国に約1300人おり、親学アドバイザーが職員の保育園・幼稚園も全国に広がっている。特に埼玉県では、公表されている施設だけで64もあるという。
関西でも人気が高く、2012年5月には、大阪維新の会が親学をベースにした「家庭教育支援条例」を大阪市議会に提出した。しかし、条例は「発達障害はわが国の伝統的子育てで予防・防止できる」と記されていたことから、発達障害の子供を持つ保護者団体などから「偏見を助長する」と抗議を受け撤回に追い込まれた。
もう一つ、保守系の教育関係者の間で人気なのが「江戸しぐさ」だ。江戸商人が築いた行動哲学とされ、雨の日に傘を傾けて互いにすれ違う「傘かしげ」や、非喫煙者が同席する場では喫煙をしない「喫煙しぐさ」などを紹介している。
これには歴史的根拠がないという歴史学者らからの批判もあるが、文科省が全国の小中学校に配布する「私たちの道徳」に掲載されている。ちなみにこの「私たちの道徳」は、民主党政権時代に廃止された道徳教材「心のノート」を第2次安倍政権で復活させ、改訂したものだ。
親学や江戸しぐさが教育現場に広まる理由について、兵庫県の現役高校教師は、こんな指摘をする。
「全国の教師のカリスマともいえる教育学者の向山洋一さんが提唱したTOSS(教育技術法則化運動)という概念があります。これは算数の筆算に補助計算式を書かせるとか、黒鉛筆と赤鉛筆を併用したノート作成の指示とか、教育技術を向上させるスキルアップ体系で、信奉する教師がすごく多いのですが、向山さんはTOSSのなかに、親学や江戸しぐさなどを組み込んでいるんです」
TOSS教育を紹介する「TOSSランド」のHPを開くと、安倍晋三・首相と山谷えり子議員(かつて籠池理事長の長男・佳茂氏は同議員の「カバン持ちをしていた」と語っているが、山谷事務所は否定)がTOSSを推薦しているという画像が掲載されている。
※週刊ポスト2017年3月17日号