【書評】『中学生の質問箱 宗教ってなんだろう?』/島薗進・著/平凡社/1400円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
いま、宗教は「危ない」「怖い」というイメージがある。イスラーム過激派がテロと結びついて暴力を増幅し、キリスト教の原理主義者がパレスチナ人を圧迫し、日本でもオウム真理教の地下鉄サリン事件があった。宗教には「平和や友愛」「寛容と平等」といった理想があるのに、なぜこうなったのか。宗教の暴力的要素が表に出るようになった時代を、宗教学者の島薗進東大名誉教授がわかりやすく解説してくれます。
「中学生の質問箱」シリーズなので、中学生の素朴な質問がつぎからつぎへと飛び出す。動物にも宗教心があるのですか? 宗教はどんなふうに生まれたのか? 生贄とは?……なにか、いじめにつながりますね? もともと人間は救われていないものですか? ブッダはずっと心の痛みをかかえていたの? 権力者が宗教を庇護したのはなぜ? 道徳と宗教はどう違うのですか?
中学生がのり移った才媛編集者は、ずけずけと質問をして、さしもの島薗先生が考えこむと、「あら、そうなのですか」「わかるような気もします」となだめて、説得力のある答えをひき出します。
島薗先生は東大医学部に入学したときに一九七〇年代の学園闘争がおこり、「どうしたら自分の生き方の根っこが見出せるか」と考えて、宗教学を学んだ。深く考えて、やさしく語りかける。
編集者はしぶとく、「右の頬を打たれたら左の頬を出す」時代じゃないんですね? 家族はエゴのはじまり? これから宗教はどうなるんですか? 死生学ってなんですか?と雨あられの質問を浴びせる。この編集者の正体は巻末で明かされます。
輪廻転生すると、またつぎの世で苦しまなければいけないの? 島薗先生は「仏教的に言えば輪廻はそのまま『苦しみ』ですから」と答えた。そうか、来世があるから心安く死ねるわけではないのだ。宗教学者と編集者のがちんこ問答がスリリングで、すごく勉強になった。脳内がシャッフルされて快感に酔う痛快な一冊。
※週刊ポスト2017年3月17日号