昨年1月、世界的に権威のある『BMJ(英国医師会雑誌)』という医学雑誌に、「なぜ、がん検診は『命を救う』ことを証明できなかったのか」という論文が掲載された。その中で、「命が延びることを証明できたがん検診は一つもない」という事実が指摘されたのだ。
たとえば、最も効果が確実とされている大腸がん検診(便潜血検査)では、4つの臨床試験を統合した研究で、大腸がんの死亡率が16%低下することが示されている。その一方で、がんだけでなく、あらゆる要因による死亡を含めた「総死亡率」が低下することは証明できていない。
なぜ大腸がん死亡率が減っても、総死亡率は減らないのか。論文の著者らによると、過剰診断によって「ニセがん」(命を奪わない病変)が見つかり、無用な検査や治療を受け、命を縮めてしまう人がいるからだという。
放射線や抗がん剤による治療は強烈な副作用など、体への負担が大きい。つまり、がん検診のメリットを、過剰診断にともなうデメリット(害)が、打ち消してしまうのだ。
欧米では、死亡率低下効果が明らかと思われてきた乳がんのマンモグラフィー検診(乳房のX線検査)でさえ、近年、死亡率低下効果が見られないという報告が相次いでいる。
さらに2012年に米国オレゴン健康科学大学の研究者らが発表した論文では、過去30年のデータを検証した結果、検診で発見された乳がんの3分の1が過剰診断だったことが報告された。
驚くことにこの論文によると、米国ではこれまでに130万人が「無用な治療を受けた」と推計されているのだ。こうした結果を受けて、スイスでは医療委員会が乳がん検診の廃止を勧告している。
前立腺がん検診についても、死亡率低下効果よりも過剰診断によるデメリットが大きいことから、米国や英国など欧米各国は推奨していない。このように、いまや海外では、がん検診の有効性自体が疑問視され始めている。
●鳥集徹(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2017年3月17日号